第4話 佐々木さん救出と昇天

「おまたせ、待った?」


 俺はなるべく平常を装って、彼女の手を取る。


「え、あ、ま、待ってないです……!」


 パァッと顔を明るくする佐々木さんに軽く微笑み、


「手、離してもらっていいですか?」


 いきなりの俺登場にあっけにとられているお兄さんたちに、冷淡に告げる。


 俺は彼らが何も言わないので、強引にでも手を離させて、自分の体で隠すように彼女の前に立つ。


「ちょ、ちょっと、君なんなの? 彼氏?」

「なに、ヒーロー登場みたいな?」


 お兄さんたちがわーわーと騒ぐ。

 周りも何が起こっているのかと人だかりができてしまっている。


 俺は手から伝わってくる佐々木さんの震えに、大丈夫だと手を握り返す。


「逆に、俺の彼女になんか用ですか? ナンパならお断りなんで。連絡先は俺のならいくらでもあげますけど、いりますか?」


 あくまで丁寧に、冷静に。

 俺は軽い冗談も交えて、お兄さんたちを睨んだ。


「チッ、ガキがあんまりなめてると……」


 ついカッとなったのか、化けの皮を剥いでそう言いかけた彼に、俺はニヤリと笑って、


「お兄さんたちの顔から考えるに何かしら客商売をされているのではないですか。今この状態で俺らに何かをすれば、周りはどう思うでしょうね。SNSが普及した現代で、お兄さんたちはこれからどうなってしまうのでしょうね。」


 周りを指さしながらあっけらかんと言い放つ。


 ここは駅前。その一番目立つところとも言える場所だ。


 そんなところで大人の男二人が、高校生のカップルに詰め寄っていれば人だかりはできるし、動画を撮られるのは当たり前だろう。


 客商売云々はハッタリだが、彼らの反応を見るに図星だったらしい。


「ッ……い、いや、ほら、可愛い子がいるなーって声をかけただけじゃん、そんな怒んなくても」


「そ、そうだよ。じゃ、じゃあね」


 二人は周りを見渡して状況を確認してすぐに、そう手のひらを返したように素直になって、足早に去っていった。


「佐々木さん、もう大丈夫だよ」


 俺はなるべく優しく微笑んで彼女の方を振り返るとともに、心のなかで……



 うぉぉおおおおお!! マジ良かったァ……!! 助かったァァああああ!!!



 そう、叫んだ。


 いやだってさ、あんなイケメン二人だよ?


 見るからにチャラそうだし背高いし筋肉ありそうだし、殴られたらひとたまりもないよ。


 ヤダよ、痛いの。ヤダよ、怖いの。


 マジで佐々木さんがヤバくなってたときは焦ったけど、彼女のもとに駆けつけてから内心バクバクだった。


 佐々木さんの手が震えてるとか言ってるけど、俺なんて足がガックガクブルブル震えてるもん。


 マジこえぇ……もう二度ととやりたくないね。うん。


 ソレもコレも全部、佐々木さんが悪い。

 佐々木さんがかわい過ぎるのが悪い。


 俺だって道にこんな美少女&巨乳&清楚&巨乳&巨乳がいたら、声かけたくなるもん。


 まぁ、そんな勇気ないからかけないけど。


 だから、お兄さんたちの気持ちも痛いほどにわかるんだけど……流石に強引なのはやめようよ。


 Yes, ナンパ

 No, 強引


 みんなは用法用量を守ってナンパしようね!!


「あ、ありがとうございます……す、すごい、怖かったけど……それ以上に、嬉しかったです。」


 俺の服を袖を掴みながら、佐々木さんはこちらを向いてにへらと笑った。


 当然俺よりも佐々木さんは身長が低く、見上げる形になるわけで。それはつまり……


 上目遣いスマイルktkrキタコレ!!!


 夢にまで見た美少女JKの上目遣いの微笑みを、まさか生で見られるとは。俺氏、感激。


 もう本当にかわいい。かわいすぎる。国宝級通り越して、天然記念物蹴っ飛ばして、宇宙人だわこれ。


 何言ってるかわからないだろ?

 俺もわからない。


 ただ、それくらいに佐々木さんはかわいいということだ。


 うぉぉおおおお!! さーさきっ!! さーさきっ!! さーさきっ!!!!


「行こっか」


 俺は鳴り止まぬ『佐々木』コールを聞きながら、佐々木さんに声をかける。


 周りもお兄さんたちがいなくなったことによって、良かったという雰囲気に包まれて人だかりは消えていた。


「はい、ついてきて下さい!!」


 佐々木さんは、今日一番の笑顔を浮かべて数歩歩いてから、


「あっ……」


 何かに気がついたようにトテトテとこちらに戻ってきて。


「っしょ……」


 そう小さく声を漏らして俺の手を取ると、


「えへへぇ」


 幸せいっぱいといったように顔をほころばせて、繋いだ手を掲げてみせた。



 …………ごちそうさま。そして、さようなら。




 その日、俺は軽く昇天した。

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