第3話 佐々木さんと待ち合わせ

「ふぅ……俺、変じゃないかな?」


 週末。俺は餅像の前で柄にもなく鏡を見ていた。


 鏡に写るのは心配そうにする特徴のない顔の男。


 特徴があるとすれば、赤茶色の垂れ目だろうか。なんでかは知らんが、昔から目は赤っぽい茶色だった。


 親もそうだから遺伝なのかと思う。

 別にこれで困ったことも、得したこともない。


 髪の毛最近切ってないから、耳にかかってしてしまってるな。切ってくればよかったか?


 俺が失敗したとうなだれれば、鏡の中の俺もうなだれる。


「はぁ〜、緊張してくるわ……。」


 現在時刻1時半。

 2時待ち合わせなのでまだ時間はある。


 俺は普通の男。

 特筆して陰キャでも、陽キャでもない。


 だから、普通に友達はいるし、親友と呼べるやつもいる。別の高校に行っちゃったけど。


 そして、女の子と遊んだことだってある!!! あるのだ!!! ほとんど荷物持ちだったけど。


 だからその勝手は知っているし、焦るようなことでもないのだが……。


 なにせ相手があの佐々木さんだ。

 俺が思うかわいさランキング校内一位だぞ。


 超可愛いと噂の宮野先輩や、超美人で有名の一年の萩原さんよりも可愛いし美人だと思っている。


 そして胸がデカい。


 いや、これ別にそこまで大切ではない。

 いや、ごめん嘘ついた。大切だ。


 小さくてもいい。俺はラノベのヒロインならロリ系の小さい子を好きになるタイプだから大いに結構。


 しかし、大きいは正義だ。これは誰にも覆せない世の摂理。


 作業スペースだって大きければ大きいほどいいだろ。

 それと同じ。あくまで下心なんてなく、サイズとして大きいものは正義なのだ。


 また嘘をついた。下心はある。ありありだ。ありすぎてもはやメ○カリで売るレベルには持ち合わせている。


 でも、俺は腐っても紳士。

 女の子の前ではそういう気配を一切感じさせずに、あくまで人対人。異性と考えないことによって、目がそちらに行くのを堪えている。


 だってほら、胸の大きい子が歩くとき男の視線がみんなそこばっか行ってるの嫌じゃない?


 たまに街で巨乳の子が露出度高めの服で歩いていると起こる現象だが、俺はそれを見かけたことにより、見ないようにしようと心に決めた。


 だって、明らかに女の子恥ずかしそうだったし。その光景を見ている他の女の子の目が死んでいたから。


「ふぁぁ〜……まだ春だというのに太陽くん俺のこと好きすぎ」


 6月のはじめなのに、日射しが辛いぜ。

 高校2年の6月。前回返された模試がちょっとやばかったから、勉強しないといけないなと思い始める時期。


「ふぁぁ〜」


 俺が勉強したくねぇな〜と、2度目のあくびをかましたその時。


「あれ、ヤバくね?」

「エグいよな?」

「デッカ……そして可愛い」

「俺声掛けようかな」

「やめとけ。彼氏いるって」

「ヤバ、羨ましすぎ」


 そんな男たちのざわめきが聞こえてきた。


 どういうことだと、俺は声の方を振り返り……固まった。


「スゲェ、ヤベェ」

「でっけぇ……!!」

「生きててよかった」

「軽率に惚れたわ」

「天使すぎだろ」


「あ、あのぅ……あぅ…………」


 それは、俺が昔目にした光景と瓜二つ。

 男たちの卑猥な視線と、困っている少女。


 てか、あれってもしや……!!!?


「ッ!!!」


 俺は気がついたその事実に居ても立っても居られず、餅像の前から飛び出した。


 人混みの中進んでいくのは至難の業だが……彼女のためならそんなこと言ってられない。


「っ……あ、すみません……」


 どうにかこうにか人混みをかき分けて進むが、彼女まではまだ距離があった。


「ねぇお嬢ちゃん、誰待ってんの?」

「ねぇねぇ、ちょっとでいいからお茶しない?」


「え、あ、その……」


「ほらほら、行こうよ」

「すぐ終わるからさ」


「あ、あの、違くて、その、人と……」


 チャラチャラとしたイケメン二人組が少女に話しかける。

 少女が人に話しかけられて驚いて口ごもるのをいいことに、男たちは勝手に話を進め。


「ほら、すぐそこだからさ」


 ついには、少女の手を取ってしまった。


「え、だから、違う……その………」


 明らかに少女は困り顔で、行きたくないのは明白。

 なのに男たちはその手を引っ張って、駅横の細い道の方へと連れて行こうとする。


「や、やめ……」


 少女が涙目になって、拒絶の言葉を放とうとしたその時。




「おまたせ、待った?」




 そう言って、少女に駆け寄る少年がいた。

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