第3話 幼馴染の慟哭
私、今泉雪代には幼稚園から付き合いのある幼馴染がいた。その男の子の名前は、田中おたる。おたくんとは小学校までは仲が良くて、大事な所まで見た事もある。とってもアソコが可愛い男の子だった。
でも、中学校のある事件を境に、おたくんは私を避けるようになってしまった。おたくんはどうして私を避けるのかな?私、嫌われる事したかな?
それから、おたくんはクラスメイトに虐められるようになって、私は虐められているのを遠くで見ている事しか出来なかった。おたくんは何も悪くないのに。何もしてあげられない私が悔しい。
私は幼馴染失格だ。もう合わせる顔もない。
小さい頃、うちのパパとお風呂に入る機会は何度かあったけど、パパは身長も体も大きくてアソコは馬みたいに大きくて気持ち悪かった。
おたくんのアソコは私にとっての癒やし空間だったんだ。
私は、何とかおたくんと同じ高校に入ることが出来た。しかも、嬉しい事に同じクラスにもなれた。高校からやり直すんだ。そう決意して入学したけど、一度離れた
高校に入ってからも少なくなったとは言え、おたくんへの虐めは止まらなかったから。
◇◇
私は、おたくんに話しかける機会をいつもうかがっていた。食べてくれないのに毎日お弁当を2個持ってきているのも、チャンスを逃さないためだ。このお弁当を渡せる日は来るのだろうか?
気が弱い私は、虐められているおたくんに話しかける事が出来ないでいた。クラスの雰囲気も悪いし、話しかけたら私も虐められそうで怖かったから。
虐めなんて無くなればいいのに……。
――この時の私はまだ、おたくんが自殺しようとしていたなんて……全く知らなかった。
その日は、本当に普通の日だった。いつものように始まり、いつものように終わる。そんなはずだった。
一時間目の休み時間の事だった。突然入って来た隣のクラスの物凄い綺麗な女の子が、事も有ろうに、私のおたくんに抱き着いて、胸を押し当てているのを見てしまった。
確か、あの女の子は渡月さん。超美人で、なんか不良っぽい所が苦手だけど、たしか付き合ってる人がいるって噂を聞いた事が有る。そんな美少女が、私のおたくんに何の用?
案の定、虐めの対象のおたくんが、隣のクラスの美少女と仲良く話しているのを気に入らない連中が舌打ちをし出した。
私がびっくりしたのは、その後の渡月さんの怒声だった。
「ああん!?おい!今舌打ちしたやつ出てこいや!私が誰と付き合おうがてめえらには、関係ねぇよな?」
今まで誰もおたくんの事を助けようとしてこなかったのに、彼女は声を上げて怒っていたのだ。
「私の彼氏、山田おたるに手ぇ出してみろ!ぶち殺すからな!」
え!?彼氏?おたくんが?え?渡月さんとおたくんが?
私は戦う前から負けていた。彼女に敵うわけない。今までおたくんを見捨てて来た私には、もうどうする事も出来なかった。
次の休み時間も、その次の休み時間も、彼女はおたくんと楽しそうに話していた。
――本当に付き合ってるんだ。
もう、疑う余地なんて無かった。あんなに幸せそうな二人を邪魔する人はもういなかった。
そして、もうおたくんを虐める人はいない。
◇◇
昼休みになって渡月さんは、こっちの教室に来なかったので、私にとってのチャンスが来た。
今まで渡せなかった、おたくんの為に作ったお弁当を、今日こそ渡すんだ。
「あの、良かったらこれ、食べて?」
「え?」
恥ずかしいから、早く受け取ってよ!私は無理やりお弁当を、おたくんに押し付けた。
「つ、作りすぎちゃったから」
違う、おたくんの為に毎日、私が作っている愛妻弁当なの!
「うん、ありがとう。今泉さん」
おたくんの他人みたいな呼び方に、私の顔は引きつってしまった。
昔は雪ちゃんって呼んでくれたのに。苗字でさん付け?
私は、おたくんとの間に出来てしまった大きな溝に、ただ心の中で謝る事しか出来なかった。
◇◇
おたくんは、私の作った愛妻弁当を美味しそうに全部食べてくれた。ついにやったよ?嬉しい!
「今泉さん、お弁当ありがとう!すっごく美味しかったよ!」
やったぁ!おたくんが私の作ったお弁当!美味しいって言ってくれた!
「そう?おたくんが良かったら、毎日でも作ってあげるよ?」
あ、私、おたくんって言っちゃったぁ!どうしよう?良くなくても毎日おたくんの為にお弁当作ってるけど?
「え?いいの?だって早弁用に持って来たんじゃ?」
早弁!?おたくん、そんな風に思ってたの?私そんなに食いしん坊じゃないよ?
「え?そ、そう早弁!早弁は止めたの!明日からはおたくんの為に作るよ?」
「そんな雪ちゃんに悪いよ……それに僕彼女いるし」
雪ちゃんって言ってくれた!嬉しいけど彼女かぁ……。いや、彼女なんかに負けないもん!
「これは私の罪滅ぼしだと思って?今まで虐められてるのに無視して御免なさい!」
「今更、謝られても……もう遅いというか。渡月さんが居なかったら僕はもう死んでたから」
「え?」
今、なんて?なんて言ったの?死んでた?
「あんまり言いたくないけど、僕は昨日、自殺する気だったんだ。そしたら渡月さんも自殺しようとしてて、もう必死に止めたよ、はは!バカみたいでしょ?」
もう、何を聞いても耳に入らなかった。涙がとめども無く出てきて私は泣いた。
「うわあああああああああああああああああああ!!ごべんなさい!ごべんなさい!おたくん!」
おたくんは、大泣きする私をやさしく抱きしめてくれた。
「もう、いいんだ。大丈夫。もう僕は死んだりしないよ」
私が泣き止んで落ち着くまで、おたくんはずっと頭を撫でてくれた。
おたくん!大好きだよ!離れたくないよ!おたくん!
わたしは、どうすれば良かったの?
どうすればいいの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます