第8話 お部屋怪奇事件



「ふぅ〜……。今日も疲れた」


 私は、敷いた布団の上に顔から倒れ込んでため息のようなものをつく。


 もう働き始めて結構経つけど仕事の疲れといつものは、全く取れている気がしない。いくら魔王城がいい設備だとしても、仕事が仕事だ。おそらく、私たちが働いているあそこ以外で働いている魔族さんたちはさぞ楽しいものだろう。


(――もう……やめよ)


 こんな予想は、何度もしてきた。

 

 他の人たちのほうが、楽なんじゃないかと。でもそんなことしても何も変わるわけでもなくただただブラックな私の仕事場が虚しくなるだけ。


「今日も一日お疲れ様。おやすみ……」


 いつものルーティーンのような言葉を自分自身にかけて、部屋を真っ暗にする。


(――ちょっと。ちょっとだけまだ起きてようかな)


 私は、そう思って何気なく布団の上に座る。


 真っ暗になった一人だけの部屋が大好きだ。

 誰にも邪魔されず、静かな空間。そして嫌いな自分のことを一切感じずにすむ。この真っ暗な部屋の中では、なんにも気にしないで何も考えなくても誰も何も言わない。


「ふぅ〜……」


 この空間だけは私が支配しているんだぞと考えると自然と体から力が抜けて頭の中が空っぽになる。


(――もう、そろそろかな)


 ずっと何もせずに、布団の上で座っていたらやはりというべきか私のもとに眠気が襲ってきた。眠気を拒むことはない。襲われ、私は少しづつ目を閉じていき……。


「もう、寝ましたか?」


 座ったまま完全に眠りそうになっていたのだが、そんな幼い女の声を聞いて眠気が一気に覚めた。


「……だぁれ?」


 目を擦ったり、あくびをして真っ暗な部屋の中を確認したのだがその声の人物は見当たらなかった。


(――幻聴、なのかな?)


 私はもう眠たいというのもあって、考えるのが面倒くさくなったのでそういうことにして今度は布団の中に入って寝ることにした。


 それから数分。

 目はつぶっているのだが、やっぱりさっき聞こえてきた幼い女の声が気になって寝ることができていなかった。


(――もういい加減寝ないと、明日の仕事に支障が出ちゃう)


 自分の中で、そう何度も言い聞かせて寝ようと試みる。そんなことをしていると……。


「むふふ。寝たのですね」


 またもや、幼い女の声が聞こえてきた。今度の声は、近くて私のお腹辺りから聞こえてきた。


(――そこにいるんでしょ!)


 さっきまで少し眠りそうだった体を無理やり動かして、お腹辺りにいるであろう女の子を捕獲しようと手を伸ばした。


「ほぎゃ!?」


 たしかに私の手が何かを掴んだ感触はあった。そして、それと同時に幼い女のびっくりしている声が聞こえてきた。


(――ここに私の寝床を襲う犯人がいる!)


 声と感触を目の前にして、そう確信した。


「お前かッ!」


 相手のことを威嚇しながら、重い腰を上げて両手で掴んでいるものを見たのだが……。


「ひゅひゅ……ご、ごべんなざぃ!!」


 そこにいたのは、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっている少女。服は可愛いワンピースを着ている。見た目から察するにまだ5歳くらいに思える。


(――あ、あれ?)


 私はそのとき、あることに気がついた。


(――この子の体、透けてない?)


 そう、ちゃんと両手には捕まえていて脇腹の感触はあるのだが体から壁まで見えているのだ。


「うぇ〜ん!! ごろざないでぇ〜!!」


 少女は、私に捕まり怯えているのか泣き叫んでいるだけ。逃げようと体を動かしもしない。もう、あきらめているのだろうか。


「大丈夫。絶対にあなたのことなんて殺さないわ」


 少女の頭があるであろう場所を撫でてあげながら、怯えないように小声で囁いた。

 すると少女は……。


「ほんと? ほんとに殺さない?」


 「ぐすぐす」っと、頑張って涙をこらえながら聞き返してきた。


(――初対面の印象って、すぐ人のことを殺すような人間に見えてるのかな?)


 私は少女がそんなことを言っていたので、嫌な想像をしたがすぐやめた。


 とりあえず今は別のするべきことがあるのだと考え、空いている手で少女の背中をさすってあげ落ち着かせる。


「ええ。だから少し、あなたが何者なのか教えてもらえない?」


 少女が話してきた内容はどれも衝撃的なものだった。


 まず少女は、本物の。おばけというのは魔族ではなく、また別の種族になってくる。なのでどうやら、お腹が空いたため魔王城の中にバレないように忍び込んだらしい。


 少女は、お腹が空いたから忍び込んだといっていた。そのことを言及してみると、どうやらおばけというのは誰かの夢を食べて生きているらしい。


 普通生きていくだけなら、誰の夢でもいいらしい。だけど夢が辛かったり痛かったり、苦痛の夢が格別に美味しいらしい。だからいつもこっそり部屋の中に忍び込んで、一番気に入った私の苦痛を感じる夢を食べているとのと。


 少女の衝撃的なことをすべてを聞き終えて、私はまずこう思った。


(――おばけって本当にいたんだ)


 おばけというのは、少なくとも人族の中では大人が子供のことを怖がらせるときに使う鉄板のネタ。


 なのでそんなネタのおばけが目の前で喋っているという事実を受けて、私だけが本当のことを知っているのだと嬉しく思った。


「ねぇねぇ、おばけってさ……」


 それから私とおばけちゃんは、朝日が登ってくるまで楽しくワイワイと話して友達になった。


 ちなみに夜ふかしをしてしまったその日は、仕事場に大遅刻してしまい残業の残業の残業の残業をするハメになったとさ。

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