第9話 シュラちゃんのお仕事



「はぁ〜……。もうやだ」


 私はシュラ。なぜか魔族に拉致されてこの魔王城で働かされている。そしてそこになぜか勇者とされている人物がいたり、仕事ができる先輩もいて私も流される感じに仕事をしている。


 正直、流される感じに仕事をしていても別段嫌ではない。だがなぜそんな私がため息をついてテーブルの上で、野垂れ死ぬような姿になっているかはその膨大な仕事量に負けていたから。


 最初私は、資料の統計を取る。そんなのしたことがなかったので、一瞬で終わるだろうと思っていたのだが甘く見ていた。


 統計というのは、魔王城にいる魔族のみならずそれ以外の色々な場所にいる魔族が使っているものなどなどの統計なのだ。なので毎日毎日仕事は増える一方。テーブルの上に乗せられている書類は、全く減っていく気がしない。

 

(――先輩……。いいや、モモさんはすごいな)


 モモさんは、そんな私が日に日に増えていく一方の仕事量をいつも一日で終わらせてしまう。あの人が帰るときのテーブルの上はいつもきれいになっている。

 

 私は、そんな仕事ができるモモさんにいつも「手伝おうか?」と声をかけてもらっているが断っている。正直、手伝ってほしいのだが仕事ができて人柄のいい人族として見本のような方に地獄の書類を手伝わせるわけにはいかない。


(――あぁ。早く手を動かさないと)


「はぁ……」


 時間はもうとっくに深夜を回っている。いつも、ため息で支配されている仕事場ももう私のため息しか聞こえてこない。おそらくここにいる魔族たちももう、寝ているんだろう。


(――よし、やるぞ)


 こんな書類、いつものように明日に繰り越すこともできるのだが今の私は完全にやるモード。このモードに入った私は、自分が納得するところまでできないと止まることがないのだ。


 ――カタカタ


 ――カタカタ


 ――カタカタ


 さっきまで誰も、なにも物音一つ聞こえなかった仕事場にいつものようなタイピング音が支配した。もちろんその音は私のもの。 


 ――カタカタ


 ――カタカタ


 いつも不快にも思っていたタイピング音だが、今ではすこし安心する音になっている。誰もいないで、一人で仕事をこなしている私の味方なのだと。


 

 それから少しして。


「ふぅ」


 ずっとタイピングを続け、少し休憩をしようかなと手を止めたときには書類の半分が終わっていた。


(――あぁ。もうすぐで終わるわね)


 いつの間にかなくなってきていた書類を見て、終わりが見えてきたことに思わず広角が上がってしまった。もし、今の私の顔を鏡で見てみたら魔ソコンの光だけが照らされていて不気味な笑顔になっていることだろう。


「んん〜……はぁ〜」


 長時間座りっぱなしだったせいか、カチカチに固まってしまった体を目一杯のばして体をほぐすとともに、目を覚まさせる。

 

(――あと、もうひと頑張り!)


 気合を入れ直して、はじめよう。そうおもったのだが……。


「ひぃゃうい!?」


 警戒心ゼロだったせいか、後ろから肩をトントンと叩かれ自分でもわかる変な声を出してしまった。体が飛び跳ねて、まだ肩を叩いた手の感触が残っている。


 恥ずかしい声を出してしまって、おそらくその声が後ろから叩いてきた人物に聞こえていたであろうと考えると顔が真っ赤になる。


(――な、ん、な、の、よ!!)


 私は若干というよりかは、結構後ろにいる人物にむかって怒りをあらわにしながら振り返る。

 するとそこにいたのは……。


「やぁ。まだ仕事をしていたのか?」


 何気ない顔をしている、ハタ改会というのを作った酒場でしか話したことがないリザードマン。モモさんの友人で、ドラ……さんという名前なのは覚えている。


(――大丈夫なのかな?)

 

 私はドラさんと、まだあの酒場以来一度も話したことがなかったので嫌われていると思っていた。なので案外気楽に話しかけられてきたので動揺していた。


「は、はい……ドラ、さんもこんな深夜まで仕事ですか?」


 動揺しすぎてか、変に息継ぎをしてしまってカタコトになってしまった。


「あぁ。ちょっとあっちで資料整理をしててね……」


 ドラさんは、よほど疲れているのか暗い顔をしながらため息混じりにそんなことを言ってきた。


(――大変だったようね)


 私は魔ソコンの光でしか見えないのだがその暗い顔を見て、どれだけ大変だったのか私も資料整理で痛い目を見たことがあるのでだいたい勘付いた。

 なので。


(――早く休んでもらいたいな)


「ふぅ」


 ドラさんは、私が口を開く前に先に動いた。歩き進めてる方向は帰るための扉ではなく真逆。先にあるのは真っ黒なカーテン。 


(――何しようとしているんだろう?)


 そう思ったが次の瞬間。


 ――シャッ


 急にカーテンを開けてきた。それと同時に、朝日のような眩しい光が顔にかかってきた。まだ深夜だと思っていた私は、慌てて手で顔を隠してカーテンを開けてきたドラさんのことを見る。


(――見えない……)


 逆光で表情なんて一つ見えず、そこにあったのはリザードマンもただ真っ黒なシルエット。


「もう深夜じゃなくて、早朝なんだけどね」


 ドラくんは、光が差し込んできている窓を苦笑しながら見て言ってきた。


(――そう、なんだ) 

 

 その時始めて、もうすぐでモモさんが仕事場にきてこんな不格好な場面を見られてしまうのだと少し悔しい気持ちになった。


(――まだ間に合う!)


 決意を固め直して仕事を再開しようとしたのだが……。

 

「手伝うよ。その書類」


 ドラくんは、勝手に書類の山から半分以上ごっそりと書類を取っていった。多分量的には、3分の2位。そんな大量の書類を、さっきまで書類整理で疲れているであろうドラくんがなんもためらわずに取っていったのだ。


「大丈夫。大丈夫。どうせもうすぐ終わるし……」


 私は慌ててドラくんが、テーブルに向かおうとしている体を止めて資料を取ろうとする。


「その量を終わらせる前に絶対モモが出勤してくると思うんだけど、それでもいいのか?」


「お願いします」

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