第7話 ドラくん視点。
「今日から君はここで働いてもらう」
間違いなく、俺がこのクソみたいな人生の中で大きく変わったのはこの言葉。
魔族の中で、もっとも落ちこぼれ。そしてはみ出し者として扱われる、鬼とも言われる鬼畜上司がいる雑務をメインでやる仕事場。
元々、両親はもうこの世にいないので、そんな使い捨てにされる場所で働くことになったとしても誰にも迷惑がかからないのでなんとも思わなかった。
思ったこととすれば、また少し周りから見られる目が冷たくなってしまうなぐらい。俺の種族リザードマンは魔族の中で、ドラゴンの未熟者としていじめられるのが当たり前。
なので、どれだけ冷たい目で見られたとしても俺の心は微動だにしない。
そんな俺は、牛丼を食べることしか楽しみがない。
初めて仕事場に行ったとき目の前の光景を見て、衝撃を受けた。
テーブルの上に、書類の山。全員目の下にくまがありテーブルの上で野垂れ死ぬように寝ているものがいたり、歩く道に寝ているものもいた。
(――うわ。何やってるのこいつら……)
俺は最初、ドン引きして素通りしたのだがそいつらと同じようになるのには、それほど時間はかからなかった。
ある日、人族の女が連れてこられたということを耳にした。だが俺は以前にも、勇者だと言われている人族の男が連れてこられたのでどうせ同じようなやつだろうと特に何も思わなかった。
だが、それから数日。
急に、仕事場の空気が明るくなった気がした。それは確実にその人族の女が連れてこられてから。
(――こんな仕事場を明るくするようなやつって一体どんなやつなんだろう……?)
その時初めて俺は、人族の女に興味が湧いた。
そして興味が湧いた俺は、すぐ行動に出た。
女のことを見ようと、わざと資料を整理するつもりで席から離れてくれて女がいる場所に行った。だがそこには、俺と同じように気になった魔族がいたんだろう。
女の席を囲むように、たくさんの魔族がいた。
(――くそっ。これじゃあ、見えない)
飛び跳ねたり、イスを踏み台にしてみたのだが女の姿を拝むことは叶わなかった。
(――何をしているんだ)
俺はこんなことをしている自分自身のことがバカバカしくなり、もう帰ることにした。まだたくさん仕事が残っているが今はもう、そんなことをする気分ではなかった。
「はぁ〜……。今日はどこにいこう」
いつもと変わらないため息を付きながら、夕食のことを考える。
俺は、共同スペースにある食べ物は食べない。いやリザードマンである俺があんな密集地に行ったら、リンチにされることが関の山なので食べに行けない。
いつも、人がいない場所に行かないといけない
(――そうとなると……)
だいたい行く場所が限られてしまうのだ。
「はぁ〜……」
今日何度目なのかわからないため息をつく。
俺はいつもこうだ。いつもいつも、リザードマンなのでいろんなことを我慢しないといけない。俺も一人でいいから、欲を言わず本当に一人でいいから心から喋ることができるそんな人物がほしい。
(――いや、そんなの無理だよな)
「はぁ〜……」
自分のうちから、希望やその他諸々。色んなものを吐き出すようなため息をつく。
あきらめている。あきらめているのだけど、俺は心の中でどこかあきらめきれない。
(――もう、やめよう。こんなこと考えていても虚しくなるだけだ)
「はぁ〜……」
ため息と一緒に、考えを吐き出す。
(――これでいいんだ)
自分は、この程度の魔族なのだと。
自分は、それ以下の魔族なのだと。
そう何度目かわからない繰り返しし考えている言葉を、今一度心に刻みながら一人虚しく食べる夕食の店へと足を進める。
そのつもりだったのだが。
「はぁはぁ……」
俺は後ろから、息が切れている魔族ではない声を耳にして足が止まった。
「あの、ここらへんで美味しいお店ないですかね?」
後ろから歩いて、横から顔を出してきたのはきめ細かい白い肌で薄っすらと茶色がかった髪の毛を揺らしている女。
(――まさか……!)
容姿を見た瞬間、この人物こそ俺がさっきまで見ようとしていた人族の女なのだと確信した。特に理由はない。だけどなぜか、この人物から元気を感じたから。そしてなにより、今まで見てきた中で一番嬉しそうな笑顔をしていたから。
「牛丼屋が近くにあるから一緒に行く?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます