閑話 ガイガイくんの懐かしい記憶
おいらが、周りに強く当たるようになったのはいつ頃だっただろう。ずっと心のなかで考えていた。
明確に覚えているのは、フース様がいなくなってから心のなかにぽっかりとした穴ができてしまったということだけ。それ以外は、なんにも楽しくなくて嬉しくもなくて全部が全部同じに見えた。
だからおいらは周りに強く当たることで、反応を楽しく思っていたかもしれない。
そんなおいらのことを見捨てずに、ずっと寄り添ってくれていたやつがいた。そいつは古い友人で、キャットシーの村にいたときから親友のように仲が良かった。
だけどおいらが魔王城の中でゴミ捨て場とされている仕事場に移動させられたときからもう一言も口を聞いていない。聞いていないというよりかは、あいつがおいらなんかと話していたら変な噂がたってしまう。そう思って自分から避けていた。
いつからだったか。その友人がいる集団から嫌がらせのようなものを受けるようになったのは。
最初は、部屋の前においらが大嫌いな魚をおくという幼稚な嫌がらせだったがそれがどんどんエスカレートしていき、おいらが住んでいる部屋の中に落書きや穴を空けられるようになった。
ふざけんな。
その時は慣れない重労働だったためか頭の中にそんな言葉は湧いてこず、自分がこうされるのは当たり前だと思いこんでいた。その頃から、おいらの目には色が見えなくなり全て目に映るものが白黒に見えていたのだと思う。
ある日たまたま帰り道、なんでかわからないけど仕事場で仲良くしてくれていたジジエさんが部屋に入りたいと言ってきたので入れてあげた。
第一声がこれだった。
「なんなのよ……これ」
目の前にある、嫌がらせの数々に絶句していた。
「さぁ、お茶でも飲みますか?」
おいらはなぜ絶句なんかしているのかわからなかったが、ジジエさんに尋問のようにいろんなことを言わされた。そうしてなぜ、部屋が荒らされていたのか聞いたジジエさんはいきなり抱きついてきた。
「大丈夫よ。……少し、休みましょ」
頭を撫でながら、耳元で囁くように、優しく体全体を包み込んできた。
それからジジエさんは、おいらが毎日受けている嫌がらせはおかしいものだということを伝えてくれた。そこでわかった。自分はおかしくなっちゃったんだと。
「わたしにまかせて!」
何を任せるのか。主語でわからなかったのだが、その後すぐにジジエさんがおいらのことを嫌がらせしているのをやめさせようと頑張った。
嫌がらせをしている古い友人がいる仕事場にいって、上司に掛け合ってみたり魔王直属は配下に抗議してみたり。
だがそれらは結局無意味だった。何を言っても、ジジエさんの言葉は受け入れてもらえず見て見ぬ振りをされてしまったのだ。
なにもできなかったジジエさんは、おいらに向かって謝り続けてきた。
「大丈夫だよ」
そう言っても、何度も何度も「ごめんなさい」と。「何もできなかった」と。その日はジジエさんが、泣きつかれて眠るまでずっと声をかけ続けていた。
「おはよう!」
ジジエさんは、満面の笑みで挨拶をしてきた。
昨日、どれだけ泣きわめいていたとしても仕事をする毎日は何事もなかったかのように進んでいく。時間だけが、おいらのことを置いてけぼりにして色あせた毎日が進んでいく。
だがそれは唐突に終わりを告げた。
ジジエさんがおいらに振ってきた去年もした、何気ない現地調査の仕事。そのとき見た顔を見て、モモのことを見て、不思議と忘れ去られた鮮やかな色が少しづつ目から戻ってきた。
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