第3話 慣れ始めた魔王城



 魔王城は、とても広い。 


 広いという言葉は、人が百人入る部屋だったり動物がゆったりと眠れる部屋のことを指すかもしれない。だけど、そんなのと比較するのはおこがましいというほど魔王城は広い。


 下手したら、国一個分あるかもしれない。もちろん私は、ここで働いているから出口なんかわからない。もう、働き始めて経つけど未だに迷子になったりする。


 食事は、共同スペース。


 私は、でふでふのオークっぽいおばちゃんが作ってるシチューが大好物。最初は、魔族が作っているのでまずいのだろうと思っていた。


 だけど口に入れてみるとあら不思議。香ばしくて、濃厚な牛乳。かなりの時間煮込んだのか、トロトロになっている肉と野菜たち。


 いつも、気がついたら皿の中にあったシチューがなくなっている。なので私はいつも大体、5皿ぐらい食べてしまうのは自分とおばちゃんの秘密。


 お風呂も同じく共同スペース。


 もちろん男女別れている。女風呂はいつも混み合っている。それもそのはずここには色んな種類の魔族さんたちがいるんだから。


 カエルみたいな魔族さんだったり、カッパみたいな魔族さんたちがいて驚いたけど一番驚いたのは人魚みたいな魔族さん。


 まず私は、上半身は人族で下半身は魚のように尾ひれがついている魔族さんがいるということが迷信か何かだと思っていた。なので初めてみたとき、絵本の中にいるはずの人物がいて目が離せなかった。


 そしてこの共同スペースばっかりの魔王城で私が唯一、一人になれる場所は自分の部屋。


 ここはいい。

 広さは、布団を敷けばほぼ足の踏み場がなくなってしまうくらい狭いけどそれがまたいい。足を伸ばせて人に見せれないほどだらけきってゴロゴロできる。


 そしてなにより……。


「モモちゃん、お菓子作ったから一緒に食べない?」


「うん! どうぞ!」


 部屋の中でぷちパーティーみたいのができること。

 私はここに来る前は、毎日魔族を斬っていた狂人女剣士。なのでこういった女の子同士の女子会なるものなんて、一度もしたことがなかったのですごく新鮮で仕事以外ではこの魔王城は楽しい。


「じゃあねぇ〜。また今度、誰か誘って来ていいかな?」


「うん! いいよ」


 そうしてジジエさんは、突発的に夜来て1時間ほど色んな話をして帰っていく。


「ふぅ〜……」


 だいたい私は、いつもジジエさんが帰ったあとの部屋で一人ため息をついている気がする。


 自分でもよくわからないけど静まり返った部屋が虚しくて、でもさっきまで楽しくお菓子を食べながら自分が女子会していたのだとニヤニヤが止まらない。


「もうこんな時間か」


 時計の針は、1時を指している。

 明日も明日とて始業時間は朝の7時から。なので、1時間いや2時間以上前から起きていたい。

 

「よし、今日もお疲れ様。そしておやすみ……」


 私は電気を消して、布団にくるまりながら頑張った自分自身のことを労ってまぶたを閉じた。

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