第4話 後輩ちゃん参上
この場所で働き始めて、二週間程が経とうとしていた。
「モモちゃん。あとで、この資料の統計よろしく」
「はい!」
あれから周りの魔族さんたちから、色々なことを教えてもらい今では仕事を任さてもらえるほどの信頼を勝ち取っていた。私の長所は、どんなに馴染んでいない場所でも少し経つと自分の居場所を作れることだと改めて実感する。
(――けど、こんな場所で実感するハメになるなんて二週間前の私は全く考えもしていなかったな……)
「モモ。これから一緒に飯でも食べに行かねぇか?」
誘ってきてくれたのは、この前たまたま帰りが一緒だったので牛丼を食べに行ったリザードマンのドラくん。
「ごめん。まだ仕事が残ってるからまた今度ね」
そう申し訳無さそうに言うとドラくんは、肩から力が抜けあからさまに残念そうなリアクションをとってしまった。そして、「それなら仕方ねぇな……」といってトボトボと足を動かして帰っていった。
ドラくんは、この仕事場で仕事以外の話を私以外に話している魔族さんを見たことがない。
(――ちょっと悪いことしちゃったかな?)
「おいモモッ! ここの資料整理、お前の分担じゃねぇか。早くやりに行けや」
相変わらずの鬼上司がようやくなくなってきた書類の山を復活させてきた。そこには、ゴブリンの食器の数を確認しろという書類が。それも、かなりの種類。
(――ようやく終わってきたのに……。分担とかそんなの、一度も聞いたことないんだけど!!)
と、叫びたい気持ちになったけど上司には逆らえない。
「ごめんなさい……。今すぐにします!」
私は、内心めちゃくちゃ怒っているけどそれを感じさせないように嬉しそうにニコニコしながらイスから立ち上がって、資料整理をする場所に移動していった。
(――クビになったら元も子もないからね)
*
「ましか……」
「今回は結構早かったな……」
私は、資料がおいてある場所に来たのだけどそこにはいつもならありえないほど大勢の魔族さんたちが、ガラスの前に並んで何かを見ていた。それも、みんなどこか神妙な顔立ちをしながら。
(――この先に一体何があるんだろう?)
「あの……どうしたんですか?」
一番近くにいて、一度も話したことのないゴブリンのような魔族さんに思い切って聞いてみることにした。
「ん? あぁ。モモちゃんは、これ見るの初めてか?」
その魔族さんは、どこか先輩ヅラをしながらガラスの奥を指さしてきた。まぁ、ここで働いている魔族さんは全員先輩なんだけども。
(――なんで私の名前を知っているのか疑問だけど、今はそんなことどうでもいいや)
私はそう思って、魔族さんがさしているガラスの奥を見る。
そこにあったのは……。
「あれって……」
「お! さすが一週間前まであそこにいたんだから気づいたか」
「まぁ、気づくっていうか覚えてただけなんですけど……。あれがあるってことは、まさか私と同じ人族がこの場所に働きに来たんですか?」
「あぁ……そうだ。ほら、もうすぐ布が開けられる。静かに見ないとマナー違反になっちゃうぞ?」
魔族さんは、口の前に人差し指を立てて「静かに!」とジェスチャーをしてきた。
私は、さっきまで別の魔族さんが喋っていた気がしたので、そんなの大丈夫だろう。と思ったのだが、試しに周りを見渡してみるとここにいる魔族さん全員の迷惑だと言いたげな視線が集まっていた。
「あっ、すいません……」
私が悪いのかよくわからないけど念の為周りの魔族さんに迷惑をかけないように、小さくペコリと頭を下げ謝罪をして口を閉ざす。するとみんなの興味は一瞬にして、ガラスの奥にいった。
(――もしかして、私がここに来たときもこんな感じで監視されてたのかな? もし、そうだったら結構恥ずかしいんだけど……)
そんなふうに嫌な予想をしながら私も他の魔族さんたちのように、同じガラスの奥に意識を向ける。
黒い布の前にいるのは、私のことを布の中から出して働けと命令してきた鬼上司。
(――あれ? さっきまで私に仕事の分担だろとかいっていたのにもうここに来ていたんだ)
私はいつの間にか移動していた鬼上司のことを不思議に思っていると、布の中から叫び声のようなものが聞こえてきた。
「ここはどこなの!? 私は賢者様の一番弟子、シュラよ。この私をこんなところに閉じ込めて、ただで済むと思っているのかしら!!」
布の中にいる人物は叫び声からして、私と同じ女性だということがわかる。そして、賢者という言葉を聞く限り魔法特化型の魔法使いだということも。
(――でも、なんでそんな優秀な魔法使いが魔族さんなんかに捕まったんだろう……。魔族にもそういう魔法使い特化の魔族がいるのだろうか?)
私はたった一度きりの叫び声から、色々な考察をしていると……。
「いて……」
布の中にいた女の子は私のように鬼上司によって無造作に、地面に放り出された。
そこにいたのは、今まで見たことがないほど透き通っていてきれいな銀髪の女の子。そんなきれいな髪の毛の女の子だったにもかかわらず、私の視線は自然とタプタプと揺れているたわわな胸へといった。
(――ここに来て、初めての人族の女の子だけどあんなに大きいものを持っているとなると敵!)
決して、自分のものが他の人より小さいとは思っていないけどあの子はそれを上回るものを持っている。
「お前は今日から、ここで働くことになる。せいぜい身をこにして魔族の役に立て」
「はっ!? なんなのよそれ!?」
銀髪っ子の胸を見て、勝手に嫉妬していると私と同じような反応をした。
「頼むきてくれ……」
「俺。俺。俺。上司様。俺に任せてください」
その様子を見ていると急に、ここにいる魔族さんたちがそう言ってどこか祈るようにして独り言をつぶやき始めた。
(――きてくれや、任せてくださいというのは一体どういう意味なんだろう?)
そんなことを思っていると、鬼上司はいつになく真剣な顔をしてなにかを悩んでいるかのようにこちらに顔を向けてきた。
「そうだな……モモ。お前がこいつの仕事を見ろ」
「は、はい……。わかりました?」
(――仕事を見ろっていうことは、この子が部下になるっていうことなのかな?)
私は鬼上司が言っていることを理解できないまま了承してしまった。
*
銀髪っ子が部下になっのでとりあえず1から教えやすいように、場所は私の隣にした。そして、私は部下なんて初めてなので少し張り切りながら教えようかと思っていたのだが……。
「あなたってまさか、あの女剣士として数々の異名を持っていると言われ数多の魔物をなぎ倒していったという有名なモモさんですか??」
銀髪っ子は、イスに座る前に私の目の前に来て憧れの人物にあったかのように目をキラキラさせながら聞いてきた。
(――数々の異名、数多の魔物をなぎ倒すって言うのは間違ってはいないんだけど、少し言葉が荒い気がする。なんで私ってそんな野蛮人みたいな通り名なのかな!?)
「えっと……よくわからないけど、私はあなたと同じ人族のモモよ。よろしく」
「それは私だよ!」などと言ったら、面倒くさくなると思ったのであえて明言しなかった。そして、話を長引かせると仕事を教えられないのでとりあえず右手を差し伸べた。
「あっ。よろしくおねがいします」
銀髪っ子は、そう言って申し訳無さそうに私より小さいで握ってきた。銀髪っ子の手は、触ると骨が折れそうなほど赤ちゃんのようにぷにぷにしていていつまでも触っていりるような感触。
(――いいね。いいね。私、こういうちっちゃくてかわいらしいの大好きなんだよね)
そんなことを思いながら手を握っていると、銀髪っ子ちゃんはいきなり手を離してきた。
「って、違います! なんで私と同じ人族であるモモさんが、こんな場所で働いているんですか!?」
(――なんでこんな場所で働いているなんて聞かれても、なんて答えるのが正解なのかわからない)
「いやぁ〜……まぁ、成り行きで?」
「成り行きで魔族の仕事をするんですか……? 早くこんな場所逃げましょうよ!」
銀髪っ子は、思いっきり私の手を引っ張って今すぐににでも一緒に逃げようとした。だけど、私はどれだけ引っ張られてもその場から動かない。
なぜなら……。
「いや、私もそうしたいんだけど私より先にいた勇者がここが魔王城の中だからってビビって逃げようとしないから……」
「……え? あの、人族の希望とまで言われている勇者様がここにいるんですか?」
銀髪っ子は、どこか憧れの人物に会えることにワクワクそうにしながらあたりを見渡し始めた。
「えぇ。ほら、ここにいるで……」
隣の席でもある、アーサーを指を差す。
そこにいたのは……。
「ゴリミミリ、リザードソンにへくヨヨヨ」
意味がわからないことを口にしながら、キーボードを叩いている変人だった。
髪の毛は、見たことがないほど爆発している。もはや、もともとアーサーだと知っていても誰なのかわからないようなほどおかしい容姿になっていた。
(――どうなったらそうなるのよ……)
「うん。少し疲れているみたいね」
「絶対、あんな変なのが人族を代表する勇者様じゃありません」
銀髪っ子は、アーサーのことをなにか危険物か何かだと思っているのか遠くからジト目で見ながら言ってきた。
(――たしかに私も、あの人が人族を代表する勇者だとは思いたくないんだけど……)
「いい、銀髪っ子ちゃん」
「私、銀髪っ子ちゃんじゃなくてシュラです」
「あらそう。じゃあ、シュラちゃん。まず私とあなただけじゃ、こんな大量の魔族がいる魔王の中逃げることなんてできないの。わかるわよね?」
「はい……わたしも今は、杖がないので何もできないです」
シュラちゃんは、私の言葉に冷静に現状を理解しているのか落ち着いた雰囲気になった。
(――よし、今なら話が通じるわね)
「そうよね。だから私たちの頼みの綱は勇者だけになるの。だけどその本人は逃げる気なんてなくてさらに最強呼ばれている聖剣もない今、逃げることなんてできないの」
ところどころうなずきながら真剣に聞いてくれている。なので私も、その真剣さに答えるように続ける。
「だからある程この仕事で実績をつけていって、私たちの誰かがものすごく偉くなったら全員で逃げましょう」
「……それって、いつになるんですか?」
恐る恐る、私のことを伺いながら質問してきた。
(――いつになるのか……。そんなの私に未来が見えるわけじゃあるまいし、何も明確なこと言えないんだけどな)
「さぁ。一週間後かもしれないし、数年後かもしれないしはたまた数十年後になるかもしれないわね」
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