最終話 断罪
我はいつも一番ではなかった。何をするにもニ番で、自分が誇れることなんて一つもなかった。
だがその考えがなくなったのは第九代魔王、リアール・フース様に出会ってから。あの方は初対面で、我に開口一番「お前なんてゴミカス以外なのだ!」と宣言? いや、罵ってきた。
最初、そんなことを言われ怒りを覚えた。だがその言葉が、我が立場上誰にも言われない言葉だと気がついたときには不思議と怒りの感情はなくなっていた。
それから色々あり、一番魔王候補だと言われていた我よりも先にフース様は魔王となった。魔王となったのは、完全なる実力。そしてカリスマ性。我は、そんなフース様になら先に魔王になることも納得した。そしてこれからフース様を筆頭に、魔族の改革が始まる。
そう思ったのだが、ある日突然フース様の姿はなくなった。とこを探しても出てこず、最初は旅にでも行ったのかと思っていてのだがいつになっても帰ってこなかったので、そんな楽観的な考えはやめた。
それから数週間。魔王がいない魔王城はまとまりを見せず、周りからの推薦。だが、実質的には繰り上がりのように我が魔王になった。
我が待ちに待った初めての魔王生誕祭。そこでなぜか人族の勇者と知らぬ鬼との死闘があり今、ステージの上に上がっている。
証拠を出せ。そういった途端、我に向けられていたスポットライトの一部が何もない場所に移動した。
(――故障か?)
そう思っていたのもつかの間。
「これなのだ!」
そう言って顔を隠している一人の人物が現れた。その人物は、小さい。とても小さい。だがそれでも我と同じくらい。その身長をみて既視感を覚えた。
それから声。声も、その既視感を覚えた人物に似ている。というよりか、本人のような声。
「? 誰なんだ?」
頭の中ではもう、誰なのかわかっている。隠している顔も、どんな顔をしているのかも想像がつく。
だが口が勝手に動いた。あの方はもうこの世を去ったとなっている。もう二度と会えない存在なのだと自分の中で区切りをつけたのだ。なのでそこにいる人物のことを認めたくなかった。
「ふっふっふっ……」
スポットライトを照らさている人物は、不気味な笑いをしながら顔に被さっている黒い袋を勢いよく取った。
(――やっぱり……)
まずはじめに見えたのは、きれいなロングのピンク色の髪の毛。そしてぱっちりとした大きな目、口。じっくり見なくとも、我にはこの人物が誰なのか。そんなの一瞬でわかる。
「われは、第九代魔王にして最悪最恐のぷりてーがーる……リアール・フースなのだッ!!」
フース様は、声高らかに名乗りながら人差し指を上に突き立てた。これはいつもの名乗り。いつでもどこでも、聞けば誰なのかすぐわかる名乗り。
「生きておられたんですか?」
口が勝手に動いていた。
生きているのか?
そんなの、奥にいるフース様の姿。そして立ち振る舞いを見ればすぐわかる。だけど、本人の口から聞かされるまで信じられない自分がいる。
「うむ。そうなのだ。んで、これが証拠の書類なのだ」
フース様は、当たり前のように我の言葉を肯定してきた。そして目にも留まらぬ速さで書類を手渡ししてきた。
(――やっぱりすごい)
「は、はい……」
我は、久しぶりに会うフース様に圧倒されながらも目の前に出された書類を受け取り目を通す。
(――なんだこれ……。こんなの、本当に起こりゆることなのか?)
書類に書いてあった数々の悪事を見て絶句した。
正直、信じがたいことなのだがこれはフース様が直々に持ってきてくださったもの。それを嘘だとは思えない。
「これは、少し持ち帰ってしっかりすべての事実を洗い出してもらったほうがいいな」
我はそう思い、書類をポケットの中にしまって気持ちを切り替える。
(――今は魔王生誕祭。こんな暗い話、この場に合っていない)
「皆の衆!! なんか色々あったが、我の生誕祭はこれからが本番だ。盛り上がっていくぞッ!!」
「「うぉおおおお!!!!」」
魔族たちの大歓声。
それが今の我には少し、ほんの少しだが皆に受け入れられ始めたという実感をふつふつと湧いてきた。
*
「お疲れ様です!」
「は〜い。モモちゃんお疲れ様」
魔王生誕祭から数日後。
あれからなんやかんやあり結局鬼上司は、牢獄の中に閉じ込められることになった。
そしたら何ということでしょうか! 私たちが働いていた仕事場はあっという間に、ホワイトになったのです。今ではテーブルの上に書類なんて山積みになっておらず、スッキリしている。もちろん残業がなくなり、勤務時間も短くなった。
どうやら、悪事を暴くための不当な残業や勤務時間が書いてある資料を見たリリリちゃんが働き方改革をしてくれたらしい。
(――リリリちゃんに直接、感謝してもしたいなぁ〜)
働き方改革をしてくれたのだけど、私は未だあのステージ以外ではリリリちゃんに会っていない。なので必然的に感謝の言葉を一言も言えていないのだ。
(――まぁ、ここは魔王城なんだ。いつかばったり会うことがあるかもしれないし、そのときになったら心から感謝しよっと)
「よし!」
思いっきりほっぺたを叩いて気持ちを切り替える。
(――私の、人生はここからよ!!)
世界は広い。私はこの魔王城で、強制労働をさせられ気がついた。鬼上司には、決してお礼なんかしない。
だけと、もし今も剣士として魔族のことを斬り続けていたらこんな魔族と仲良くなるなんて思いつきもしなかった。
(――次の目標は、人族と魔族の和解ね)
魔族と人族の語弊を取っ払って、みんな仲良くテーブルを囲んでご飯を食べたい。
目標が決まれば私はただ、ゴールまで突き進んで実現するまで。
「よぉ〜し……ん?」
今一度気合を入れ直して、今日は一人でご飯を食べようかなと思っていたのだが目線の先にモゾモゾとまるで私のことを伺っているような小さな影が見えた。
(――あれは、フーちゃんよね?)
目を凝らして影を見てみたのだが、その人物が誰なのか確信を持つことはできなかった。なので足早にその人物がいる曲がり角に向かう。途中、小さな影は逃げたようにも思えたのだが結局逃げずに今、私の目の前にいる。
「えっと、なにかな?」
まだ目の前で、モゾモゾとどこか嬉しそうにしているフーちゃんのことを見ながら問いかける。その顔は、広角が上がっていて嬉しそうな顔。
(――なんかいいことでもあったのかな?)
「一緒にご飯でも食べに行かないか?」
疑問に思っていると、口をゴニョゴニョとさせながらご飯を誘ってきた。見るからに、なにか言いたいことがあるのだということがわかる。
「いいよ。行こ」
返事をすると、フーちゃんの顔は一瞬で見たことがないほど明るくなった。
「やった!」
嬉しそうにして、先に走っていってしまった。
(――はぁ、まったく……)
心の中で、呆れているようなため息をついて小さい背中を追う。
その先に飲食店がないことに気がついているのだろうか。あまりにも嬉しく、何も考えずに走ってしまったようなフーちゃんのことをみて思わず苦笑してしまった。
ここで引き止めてもいいのだが、意地悪をしてフーちゃんが気づくまで何も言わないでおこう。
こんな何気なくただだらだらと時間が流れていく……。以前では考えられない、余裕のあるバカバカしい時間ってのもまたいいじゃないか。
強制労働から始まるブラック魔王城〜働き方改革をしてホワイトな職場にしてみせる!!〜 でずな @Dezuna
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