第33話 ステージへ



 正面には、ある人物が口が開かれるのをまっている魔族さんたちがいる。


 場所は、ステージ。第十代魔王である、リリリアリ・リリリと名乗った人物はすべてのスポットライトを浴びながらマイクを口に近づける。


「皆の衆ッ! 元気に我の生誕祭を盛り上げているかぁ〜!!」


「「いぇ〜い!!」」


 会場にいる魔族さんたちは、リリリちゃんがステージに立って喋っているのが嬉しいのか今まで聞いた中で一番の大歓声が聞こえてきた。


(――やっぱり、本物だったんだ)


 ちなみに私もステージの上にいる。だけど多分、スポットライトが当たっていないので会場の魔族さんたちには見えていないと思う。


 こうなったのはすべて、倒れていた鬼上司のことを見たリリリちゃんがしていること。私は何も聞かれずにただステージの上にいろと言われたので、何をされるのかわからない。


(――まさか、鬼上司のことを倒した私を犯人に仕立て上げるんじゃ……)


 いくらリリリちゃんがかわい子ちゃんで、抱きしめたくても第十代魔王であるのなら悪い想像ばかりしてしまう。


「皆盛り上がっているが、なぜまだ時間ではないのに我がステージに上がっているのか疑問だろ?」


 リリリちゃんは、若干ステージにいるのが楽しそうに口角を上げながら会場にいる魔族さんたちに問いかけた。


「まずはこいつのことを見てくれ!」


 ――カチャ


 リリリちゃんがそう言うと、スポットライトの一部が手足を縛られていて気絶している鬼上司へといった。流石にもう、びくともしていない。


「こいつは、さっき皆も見ていたと思うが天井部分である人物と戦っていたものだ」


「えっあれ、出し物じゃなかったのか?」


「本当に戦ってたのか……」


 会場にいる魔族さんたちは、リリリちゃんが言ったことでようやく事実に気がついたようだ。訝しげな顔をしながら鬼上司のことを見ている。


(――この流れ的にまさか……)


 ――カチッ


 どうやら私の予想が当たったのか、スポットライトが私の方に向いた音がした。


(――気を引き締めないと)


「そして、こいつのことを剣一本で沈めたのは……」


 ――カチッ


「モモだッ!!」


 スポットライトの光が私に当たったど同時にリリリちゃんは、声高らかに名前を呼んできた。


「「うぉおおおお!!!!」」


 会場にいる魔族さんたちは、リリリちゃんの紹介を聞いて興奮しているのか耳が痛くなるほど叫んできた。


(――ど、ど、ど、どうすればいいんだろう?)


 私はこんなステージの上で、興奮して叫ばれたことがないのでどうすればわからなくなった。とりあえず、無難にペコペコと頭を下げておく。


 そうして数十秒間経ったあと……。


「皆、静まれ」


 リリリちゃんは、ずっと魔族さんたちがガヤガヤ喋っていて気を悪くしたのか声を低くしていった。

 すると。


「「…………」」


 一瞬にして、会場全体が静まり返った。


(――これが、魔王の威厳なのか……)


 私は、リリリちゃんの一言で魔族さんたち全員が従ったのを見てただただ「ほけぇ〜」と口を開いたまま唖然としていた。


「モモ。なぜこいつと戦っていたんだ? こいつは一応、雑務をしている者たちの頂点だぞ」


 一気に、リリリちゃんが私を見る目が怖くなった。それと同時に、会場にいる魔族さんたちの疑いの目が増しているように思える。


(――ひぃ……いくらかわいくても魔王なんだ)


 真実を話そうとするがうまく口が開かない。緊張しているというのは、自分でもわかる。


(――やばいやばい!)


 私は、自分のことを落ち着かせるためにもステージ裏で目てくれているであろうみんなのことを思い出す。


 仕事に追われ、クタクタになるまで働く毎日。それでも、いつもみんなで楽しく笑いながら仕事をしていたからここまで頑張ってこれたのだと思う。


(――よし! 言うぞ!)


「わ、私はあの人の仕事場で働いているんです! そ、それであの人がしている悪事をさっきの暴露大会で言おうとしたんですが……」


「なるほど。それで、天井部分に連れて行かれて戦いが勃発したというんだな」


「はいっ!」


 自分でも緊張しすぎて、何を言っているのかわからなかった。だけど、リリリちゃんがまとめて聞きかえしてくれたおかげでちゃんと伝わっていたのだと嬉しくなった。


「悪事の証拠はあるのか?」


「はいたしかここに……」


 鬼上司と戦う前に入れておいた後ろのポケットを確認する。だが……。


(――な、い?)


 ポケットには、なにもなかった。あるとするならば資料のゴミのような小さな白いクズ。何度も指を突っ込んだりしてもないものはなかった。


(――ど、ど、ど、どうしよう!?!?)

 

 目の前には、証拠の書類が出てくるのを待っているリリリちゃん。もちろん会場の魔族さんたちは私のことを待っているのか、静かにしている。


 私はこれは完全に、証拠なんてなかったですと言える状況ではないと思いどうするものかと、どうこの空気を打破するのかと考える。


(――あぁ……無理かな)


 一瞬であきらめた。

 だって手元に証拠となる資料がないんだからどうにもできない。私は覚悟を決め、「証拠はない」とリリリちゃんに言おうと重い唇を開こうとしたのだが……。


 ――カチッ


 いきなりスポットライトの一部が別の何もない場所に光を照らした。


(――なんなんだろう?)


 そう思っていたのもつかの間、スポットライトが照らされている場所にしとりの小さな少女のような人物が現れた。


 顔は、真っ黒な袋のようなもので隠されていて見えない。だが、身長から同じような高さの人物を知っている。


(――まさか……)


 私は手に持っている書類をみて、希望が見え始める。


「これなのだ!」


「? 誰だお前」


「ふっふっふっ……」


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