第29話 怒涛の魔王誕生祭スタート
「今日は第十代魔王、リリリアリ・リリリ様の生誕祭だぁああああ!! みんなぶち上げていこうぜぇええええ!!」
「「いぇ〜い!!」」
「はぁ? なんだその気迫のない声は……。お前らもっと、ぶち上げようぜぇえええええ!!」
「「うぉおおおお!!!!!!」」
時は魔王生誕祭。
会場は、魔族たちの叫び声で揺れている。
「魔王生誕祭って、こんなライブみたいな感じでやるんですね……」
椅子に座り魔王生誕祭の会場のライブ映像を見ながら、隣りで同じピエロのようなメイクをしているジジエさんに向かって呟いた。
私は、魔王の生誕祭だからてっきりもっと静かな感じに祝うと思っていたので驚きを隠すことができなかったのだ。
「えぇ。なかなかイカしてて、最高よね」
ジジエさんは、グッジョブと親指をたてながら言ってきた。
「まぁ……」
答え方に困る。
(――たしかにイカしてるって言葉はわかるんだけど、最高かどうかはよくわからないな)
そんなふうに思いながら鏡で自分の顔に、ピエロの手直しをしていると……。
「のう、モモ。あの悪事の資料、ちゃんと持ってきておるのか?」
いきなりジジエさんとは反対側にフーちゃんが現れた。
(――急に声をかけられると心臓に悪いわね……)
急に現れたということは、フーちゃんは透明化をして私たちのことを見ていたということになる。
(――もう、それは慣れなんだけど急に現れるのは未だになれないな)
私は、バクバクしている心臓を深呼吸をしてどうにか落ち着かせる。
「それはもちろん持ってきてるわよ。いくらなんでもさすがにそんなへまするわけ……」
フーちゃんの言葉に笑いながらカバンの中に手を入れて、書類を入れておいた場所に書類を取ろうとしたのだが……。
(――な、ない?)
何度も何度もカバンの中に手を突っ込んでみても目的の書類は見つからなかった。最終手段としてカバンの中を全部出してみて探したのだけど、書類は見つからなかった。
「モ、モモ……? ふ、はっはっはっ。そんなあたかもカバンの中に入ってないみたいな下手な演技してくてもよいぞ」
フーちゃんは、私がわざとなくしているふりをして驚かそうとしていると思っているみたい。
(――本当にカバンの中に入ってないんだよね……)
「…………」
私はフーちゃんの言葉に何も言い返すことができなくなり、口を閉ざしてしまった。
「まじなのかの?」
私は今、書類をどこかにおいていってしまったのだと気づきどこにあるのかと探しに、ピエロの顔のまま魔王城を走り待っている。ちなみにフーちゃんには、私がメイクをしていた部屋を探してもらっている。
(――やばいやばいやばい!)
心の中は大事な書類、しいてはあそこで働いている魔族さんたちのことを救える書類をどこかにやってしまったということに冷静ではいられなくなっていた。
「その資料を最後に見たのはどこらへんなんだ?」
焦りに焦りまくっていたとき、いきなりアーサーが隣に来て資料について聞いてきた。
(――どこどこどこ……)
私は一瞬、なんでアーサーがここにいるのかと疑問に思ったのだが「どこらへんなんだ?」と聞かれたことで心に少し余裕が戻ってきた。
「そうね……あんまり覚えていないんだけど、この会場に移動するまではあったと思うわ」
(――あの部屋に行く途中、カバンの中に入っているなんて一切確認していない。なら、いやもしかして置き忘れているんじゃ……)
「よし、ならとりあえずモモの魔ソコンがおいてある仕事をするようのテーブルを見に行くか」
(――アーサーも私が思っている場所と同じなのね)
私は少しあのアーサーが頼りになるわ。と思いながらも、仕事場に行く道を変更してさらに足を早めた。
そうして私とアーサーは、いつも激務をしている仕事場についた。ついたのだが……。
「なぁ、あれってまさか……」
私たちは仕事場に入れずに扉の隙間から、中にいる人物を見ることしかできなかった。
「えぇ……。完全に私が暴露しようとしていた書類だわ。なんで鬼上司がこんなところにいて、私が隠し持っていた書類を見てるのよ」
(――おかしい。だって、この時間鬼上司は第十代魔王生誕祭のライブにいってるはず……。ってことは、あそこにいる鬼上司とまったく同じ容姿の人物は一体なにものなの……?)
「わからないけど、今はなんとかあの書類を持っていかないと問題が解決しないぞ?」
「そんなの知ってるわよ!」
私はアーサーが当たり前のことを言ってきて、ついつい大きな声を出してしまった。
すると案の定……。
「ん? そこに誰かいるのか?」
鬼上司は、私たちがいる扉の方を見ながらそんなことを言ってきた。
「「――――!!」」
二人で反射的に体を下に隠して口を閉ざした。
「おい! なんか、さっき声が聞こえたぞ。そこにいるのはわかってるんだ。早く出てこい」
どうやら鬼上司は、誰いなかったとするのは納得がいかないのかいつも私たちに仕事を押し付けるときみたいな命令口調で言ってきた。
(――そんなこと言われたら……)
私は仕事のときを思い出して、自然と体が起き上がっていき……。
「おい、なにしてるんだよ」
アーサーが私にしか聞こえないぐらいの小声で言いながら、起き上がり始めている体を止めてきた。
「もうバレてるんだから仕方ないでしょ」
そう言うと、アーサーは渋く嫌そうな顔をした。だけど反論はしてこない。その様子を見て私は深呼吸をし、アーサーが止めてきた腕を振り払って立ち上がる。
「はい……」
扉を開けると目の前にいつもの鬼上司がいた。
よく見るといつものようじゃない。怒っているのか、顔の血管が浮き彫りになっている。
(――怖いよ)
「モモ、お前か。一つ聞くがこの書類、一体どこで見つけた?」
鬼上司は、私が悪事を暴くための書類バシバシと体に叩きつけながら聞いてきた。
「いえ、それは……」
(――どうすればいいんだろう……?)
心の中でどうにかして嘘をつこうと模索していると、鬼上司は言葉が続かなかった私のことを見て「にひぃ」と嬉しそうに白い歯を見せてきた。
(――な、なんなの!?)
「まさか私の部屋に体を透明にしながら勝手に入って、盗み出したなどと言わないよな?」
「なっ……」
それは、私と一緒に入っていったフーちゃんしか知らないはず。
(――なんで、鬼上司がそんなこと知ってるの!?)
心の中は予想外のことを言われ、そのことを知っているということは悪事を暴こうとしていることも知られているはずだともう、よくわからなくなっていた。
「やはりそういうことか。なら、お前の周りに第九代魔王リゼール・フース。そしてタタリ族がいるよな?」
鬼上司はそうだということが当たり前かのような口ぶりで確認してきた。
(――そうだけど、そうだけどだからなんでそんなこと知ってるの……)
「…………」
私は否定もできなかった。悪事を暴く前に、本人からそんな的確なことを言われ情報戦に負けてしまったのだと敗北感を味わっていたからだ。
「沈黙は、肯定と受け取らせてもらう」
鬼上司は、嬉しそうにそう言って再び書類に目を通し始めた。
(――自分が思っていた予想を本人に確認して一体どうしたいのよ)
「わ、私たちのことをどうしたいんですかっ……」
「別に私は君たちのことをどうもこうもしないさ。いつも、鬼になって君たちのことを仕事に向き合わせている。さすがの私でも人族が言う人道ってものがあるからな」
その言葉は、別人のようだった。
いつも怒鳴って、仕事を押し付けてきて乱暴な鬼上司。その人物が到底言うはずのない言葉を言っている。
(――もう……)
私は私が見ていた鬼上司は本物ではなかったのだと気づき、何が本物で何が偽物なのかその判別がつかなくなり頭がこんがらがっていた。
「まぁでも、私がやらないだけでおそらくあの方は第九代魔王が生きていて近くにいるのだと知ったら確実にただでは済まないと思うがな」
「あの方……」
(――あの方って一体誰のことなの……?)
「っと、私はそろそろ失礼するよ。この書類は君にあげよう。今日は、唯一の仕事が休みの日なんだ。ちゃんと生誕祭に参加して祝えよ」
鬼上司はなぜか悪事を暴くための書類を私にむりやり渡して、仕事場から出ていった。
「ふぅ〜……」
口から思わずため息がこぼれ落ちる。
(――もう本当になんなのよ……)
なぜか悪事を暴くための書類を渡してきたり、鬼上司の上にあの方と言う人物がいたり、その人物がフーちゃんのことを憎んでいるということだったり。鬼上司と言葉をかわしたのはほんの数回だったのに、内容が内容だったためどっと体に疲れが溜まった気がする。
「行ったか……?」
アーサーは、出ていった扉を見ながら呟いた。どうやらいつの間にか部屋の中に入ってきたらしい。気づかなかった。
「それとアーサー。お前、仕事量倍な」
鬼上司はそう一言扉を開けて言って、今度こそ仕事場を離れていった。どうやら、鬼上司はアーサーがここで盗み聞きしていたことに気づいていたらしい。
「はぁ!? 僕がなにかしたの!?」
*
「今日は第十代魔王、リリリアリ・リリリ様の生誕祭だぁああああ!! みんなぶち上げていこうぜぇええええ!!」
そんなうるさい声が、離れている場所でも漏れて聞こえてきている。
そう、今日は魔王生誕祭。どうや出し物として、私の仕事場から暴露大会というものをするらしい。いつも仕事場で大忙しの先輩たちは、今はメイクをしていることだろう。
なぜそんなふうにこの私、シュラがのんきに予想しているのかというとサボっているからである!
(――まぁ、私なんていなくても大丈夫でしょ)
そう思ってバレないように逃げ出してみたらあら不思議。みんなバタバタしていたせいなのか、気づかれずにサボることができている。
ちなみに今私がいるのは、出し物などをする会場から少し離れた場所にある屋台コーナー。ここは、色々な食べ物がその場で作ってもらえるという神コーナー。
「いらっ……しゃぁ〜い……」
そんな神コーナーのはずなのだが、今は会場に魔族が言ってたしまってまったくこれっぽっちも魔族がいない。いるとしたら、数百人ほど座れるようなたくさんのイスが並べられているところに一人座っている私と屋台のおっちゃんたちだけ。
「はぁ〜……」
(――虚しい)
私はサボることができたので、これをいい機会にいろんな友人を作りたいのだと思っていた。だが一人ぼっちで焼き鳥を食べていて、いつも仕事場で吐いているのとは少し違う虚しいため息しか出ない。
「おい、そいつはどこで買ったんだ?」
「へ!?」
急に後ろから声をかけられたので自分でも信じられないほどのスピードで振り返った。するとそこにいたのは、ちびっこい女の子のような男の子のような性別がわからないようなちびっこだった。
「ん? 我が誰なのか気になるのか?」
まじまじと見ていて不快に思ったのか、ちびっこはどこか誇らしげな顔をしながら聞いてもないことを聞いてきた。
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