第28話 魔王生誕祭
「第十代魔王生誕祭……ですか?」
私は、ジジエさんがいきなりそんなことを言ってきたのでついつい聞き返してしまった。
(――生誕祭……まぁ、言葉の意味はわかるんだけどそんなこと魔族がするんだぁ〜)
「ええそうよ。あら、そういえばモモちゃんは生誕祭はじめてよね?」
ジジエさんは、「ふふふ……」とどこか浮足立っているように聞いてきた。
「はい」
(――生誕祭。その響きだけはいいんだけど、このブラックな職場を無視している魔王。まさか、そんな生誕祭でも何か別の仕事があったりして……)
「そう。まぁ、不安かもしれないけどあんまりわたしたちがするとなんてないから安心していいわよ」
私が思っていたことを的確に言い当ててきた。
「よかった」
私はホッとした。
(――まさかすることなんてないってことは、休みなんじゃ……)
「あっ、でも各職場ごとに魔王様に向けてなにかしら出し物をしないといけないからそれを考えないといけないわね」
またもやジジエさんは、私が思っていることを的確に言い当ててきた。
(――まぁ、さすがになにもなくて休みの日なんて私たちにあるわけないよね)
私はジジエさんの言葉なんて聞かずに、ただただ心のなかで休みではないという事実に嘆いていると……。
「いや出し物って、学院の文化祭みたいじゃん」
さっきまで仕事をしていたアーサーが、くいつくように私たちの会話の中に入ってきた
「あら、アーサーも生誕祭初めてよね?」
「あぁ、そうだけどなんだ?」
「それなら……」
ジジエさんは、どこか気まずい顔をしながら何か言おうとしたのだが、仕事場の出入り口から鬼上司が入ってきたので仕事場が一気に静まり返る。
(――やばい!)
もしここでサボっていたなんてバレたら仕事量が増えてしまう。
どうやらそう思ったのは私だけじゃなく、アーサーとジジエさんも急に仕事をしているかのように資料を見つめ始めていた。
(――わ、私もやろ……)
「おいお前らッ! これから、明後日行われる第十代魔王生誕祭の出し物を決めるぞ。なんかないか」
鬼上司は唐突にそんなことを叫んで聞いてきた。
もちろんだが……。
「「…………」」
誰も何も発言せず嫌な空気が漂い始めていた。
「はぁ〜これだからお前らは……。誰も言わないのなら私が指名した人物が決めろ」
鬼上司はそう言って、私たちのことをぎろっと鋭い目つきで見渡してきた。
私はこんな状況にもかかわらず緊張感というものがなかった。なぜなら、
(――こんなたくさん魔族さんやらがいる仕事場で私が選ばれるなんて、万が一にもありえないよね!)
とこころのなかで強く思っていたからだ。
なのでとりあえず、資料を見つめて仕事をしているふりをしておく。
「よし、じゃあモモ。お前な」
「うっそ」
私はまさかの出来事に、反射的に「うっそ」と口走ってしまった。
(――やばい。訂正しないと)
「嘘じゃねぇよ。はい、早く出し物決めろ。みんなお前のことを待ってんだぞ」
鬼上司はいきなりそんなことを言ってきた。周りを見てみると、たしかに「まだかまだか」とまっているような魔族さんたちがいる。
「えっとえっと……」
(――どうしよう。急にそんなこと言われても良さそうなのが思いつかない)
私は慌てて、もう何がなんだかわからなくなり頭がぐちゃぐちゃになっていたのだがこれは好機なんじゃないかと思った。
(――多分だけど、第十代魔王生誕祭っていろんな魔族さんたちが集まるよね。それなら……)
「よし!」と心の中で強く意気込んで、重く閉ざされた唇を開けて声を発する。
「ば、暴露大会とかどうですか?」
「「…………」」
私の言葉に仕事場全体は鬼上司が入ってきたときのように何も返事をせず、静まり返ってしまった。
(――あれ? だめなのかな……)
不安に思っていると。
「いいわねそれ。いつもの大食いは、ちょっとみんなそろそろ年齢的にきつそうだし……」
ジジエさんは、周りの空気なんてもろともしないような態度でそんなふうに呟いた。
(――よかった。じゃあいいのかな?)
「あぁ……いいかもしれん。それなら、なんにも準備しなくてもいいもんな」
「そうだそうだ」
「いいぞ……」
ジジエさんの言葉に同調するかのように、他の魔族も賛成の言葉をつぶやき始めた。
そしてその呟きがこの場にいる魔族さんたちに伝染していき、徐々に静まり返っていた仕事場の空気が明るくなっていき……。
「よし、じゃあ決まりだな。必要なものとか全部お前らが自腹で用意しろよ。会場だけは決まってるからな」
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