改革

第25話 第二回ハタ改会



 場所は、私たちが座っているイス以外誰もいなく静まり返っている酒場。私の座っているテーブルには、酒ではなく炭酸を飲みながら焼き鳥をつついている人や魔族がいる。


 そう、今日も私やここにいる人たちは残業の残業の残業くらいして深夜の2時を過ぎたとき、ようやく休憩と渉して夜ご飯に行き着いていた。 

 

 みんな疲れているのか、十分ほど無言で黙々と目の前にある食べ物を食べている。


(――そろそろいいかしら……)


 私はみんなお腹が膨れてきて、ある程度余裕が戻ってきたんじゃないかと思いこの酒場に入ってからずっと言おうとしていた言葉を頭の中に浮かばせて箸を置く。


「?」


 対面のイスに座っているアーサーは私がまだ食べ物が残っているのに、箸をおいたことに疑問に思ったのか首を傾げながら私のことを見てきた。


(――もう、大丈夫ね)


 人のことを心配する余裕があるアーサーのことを見て、口を開くことを決意する。

 

「これより……第二回、ハタ改会を始めます!」


「…………」


 みんな、私が急にそんなことを宣言したのでいまいち言っていることが理解できていないのか、何も反応せずに私のことを見てきた。


(――あ、あれ? まだ早かったかな?)


 てっきり第二回目の開催なので、拍手喝采に包まれると思っていた。なので、あまりにも真逆な反応をうけてそう思うしかなかった。


(――なかったことにしようかな……)


 私は、このまま何も喋らずに「え? なに?」みたいな感じのおっとぼけ反応をしようかと思ったのだが……。


「やったぁ〜!! 僕は以前なにもしないで酒を飲んだだけだったから、ずっとこの日を待ちわびていたぞ!!」


 アーサーが少し遅れて私の言葉に反応してきた。興奮しているのか、テーブルの上に足を乗っけてきた。


(――まぁ、食事中だけどいい反応が返ってきたから見逃してあげるわ)


 私は普段だと決して、アーサーのしたバットマナーを見逃さない。だけど待ち望んでいた反応を返してきてくれたので、多少の行動には目をつぶって口を開く。


「そう、前回私たちはなにもしないで解散してしまったの……。だから、今回は明確なる策を考えようと思います」


「よっしゃぁ〜!!」


 アーサーは、他の人のことなんて一切考えずに大声を出して喜んだ。対して、アーサー以外の人たちはあまり喜んでおらず「へぇ〜そうなんだ」などという軽い反応。


(――もうちょっとハタ改会に真剣に取り組んでもらってもいいんだけどな)


「と、その前に新しく入ったハタ改会のメンバーを紹介しようと思います」


「……え? 何も聞いてないんだけど。一応俺、ハタ改会のリーダーだよね……」


 声高らかに紹介しょうとしたのだが、ドラくんはなにか納得が言っていないかのような言葉をたらしていた。


(――あっ。なんにも言ってないや……)


 私は、ドラくんが納得がいってなくて当然だよね。と思いながらも、もう先に説明する必要もないと思ったので話を進めることにした。


「えぇ〜では、まず一人目」


 私はそう言って、隣に座っている人物のことを指差す。すると指をさされたその人物は……。


「われのことはみな、知っているだろう……」


 と言いながら、靴を脱いで椅子の上に立ち上がった。必然的に私たち全員が上から見下される形となった。


(――なんで、そんなことしてるんだろう……)


 素で疑問に思ったのだが口が開かれるのを待つ。


「第九代魔王にして最強最かわ、リゼール・フースだッ!!」


 フーちゃんは、私やアーサーに自己紹介したときのように人差し指を上に突き立てながら声高らかに言い放った。


「……え?」


「……へ?」


 ドラくんとシュラちゃんは、フーちゃんが言った言葉を理解できていないのか口を開けたままその場に放心状態になってしまった。


(――うんうん。アーサーのときはおかしかったけど、これが本当のリアクションなのよね)


 私は、そう感心しながらも驚いている二人のことを待つのなんてめんどくさいので、とっとと話を進めることにした。


「次に二人目」


「ピーちゃんは、ピーちゃん。悪感情を奪って生きているみんなが言うタタリ族だピー」


 ピーちゃんは私のポケットから颯爽と出てきた。


(――さて、二人はどんな感じになってるのかな?)


 私は少しワクワクしながら、二人が座っている方を見ると……。


「「…………」」


 黙っていた。何も言わずに、口を開けたまま瞬きもしないで。目だけで、フーちゃんとピーちゃんのことを見ている。


「あれ? 二人とも大丈夫?」


 二人のことを心配して、目の前で手を振ったりしてみると数秒遅れて瞬きを始めて体が動き始めた。


(――もう……なんなのよ)


 二人のことををみて呆れていると同時に、重そうな口が開かれた。


「んっ……大丈夫なわけないだろ」


「そうよ! なんでこんな場所に魔王がいるわけ! それにあの凶悪だと言われているタタリ族まで」


 ドラくんは、衝撃的すぎてかあんまりリアクションがないようだ。対してシュラちゃんは、目の前で自己紹介してきた人物について言及してきた。


(――なんでここにいるのかって聞かれると、どう答えるのが正解なんだろう……)


 事実としては、私たちがタタリ族であるピーちゃんの体の中に入ってそこにいた二人のことをこちら側に連れ込んだってことになる。だけど、そんなこと言っても信じてくれなさそうだしなにより私がそう言われたら言ってきた人に病院を勧めちゃうと思う。


「まぁ、色々あってハタ改会に興味があるらしいわよ」


 どういうのが正解だったのかよくわからなかったので、そう言って二人にふった。


「うむ。われは、お主らの働き方をみてこれではいけないと思い協力することにしたのだ」


「ピーちゃんは、ここにある悪感情が濃すぎて苦しいから協力するんだピー」


 フーちゃんとピーちゃんはシュラちゃんたちがあまり歓迎ムードになっていないのだが、堂々とハタ改会に入る理由を説明した。


(――詳しいことは二人の心が落ち着いたまた今度にでも話そうかな?)


 二人の説明をそんなふうに思いながら聞いて、口が開かれるのを待つ。


「……まぁ、モモさんが受け入れてるんなら何も文句は言わないわ。私はモモさんの後輩のシュラよ。よろしくね」


 以外とシュラちゃんは、何も反発しないで自己紹介をした。どうやら受け入れているみたい。


(――あれ? 私ってシュラちゃんにさん付けされるような人間だったっけ?)

 

 シュラちゃんが二人のことを受け入れてくれたことよりも、なぜか尊敬しているかのようにさん付けされていて違和感を覚えた。だけどもちろん、そんな私のことをおいて話は進む。


「うむ。よろしくなのだ」


「よろピー」


 フーちゃんとピーちゃんは、嬉しかったのかニコニコと満面の笑みになりながら挨拶を返した。


(――ドラくんはどうなのかな……?)


 そう思って、見てみるとドラくんは「はぁ〜……」と深くため息をついていた。そして、私のことを呆れたような目つきで見てきている。


(――あ、あれ? 私なにかしたのかな)


 私は少しだけ怖い目つきをしているドラくんを目の前にして、冷や汗を止めることができなかった。


「俺は、モモの同僚のドラだ。こんなんだけど、一応ハタ改会の《《リーダー》なんなんだ。よろしく」


 ドラくんは、ハタ改会のリーダーだという言葉を強調しながら自己紹介をした。


(――あっ、どらくん一応リーダーって言うことにしてたのに今回のこと何も言ってないや。だから、あんなに怖い目つきで私のことを見てきていたのか……)


 私は怖い目つきの理由がわかって、スッキリしていると……。


「よろしくなのだ」


「よろピー」


 フーちゃんとピーちゃんはシュラちゃんにもした同じ返しをして、いい感じに自己紹介が終わった。


(――さてさて、ここからどうしよっか)


 私は、切り出し方をみんなの顔を伺いながらタイミングを見計らっていると……。


「と、自己紹介は済んだな! よし、これから働き方改革について具体的な案を出そう!」


 といきなりアーサーが私のことを無視して、勝手に仕切り始めた。


(――うん。なんでかアーサーがハ改会に積極的だってことはわかってたんだけど、勢いがすごいわね……)


 そんなふうに私は、ただただアーサーの勢いに圧倒されていると……。


「具体的な案って……。われ、なんたら改革はよくわからないのだがそういうのって上にいる者の悪事を暴くといいって聞いたことあるのだ」


 フーちゃんが、顎に手を当てながら神妙な顔立ちをしながらそんなことを言ってきた。


(――フーちゃんは、今じゃかわいいすごすご魔族さんだけど元は魔王。そういう改革みたいなことには詳しいのね……)


「上の者で悪事をしているっていったら、あの鬼上司しかいない……」


 そう言ってアーサーは、炭酸を口に一口入れて飲み込む。


「……あの鬼上司の悪事を暴くことなんてできるのかしら。だって、そんなの絶対に表になんかださないわよ?」


 シュラちゃんはため息混じりにそんなことを言ってきた。


(――たしかに長年続けていたであろうブラックな部分をあの鬼上司が、表にだすとは考えられない)


「ピーそれじゃあ、暴くことなんてできないピー」


「「…………」」


 さっきまで意見を出し合ってた私達は、ピーちゃんの言葉が決め手となり完全に静まり返ってしまった。


(――これは、なにか別の案を考えたほうがよさそうね……)


 私は変わってしまった空気を感じて、そう思ったので口を開こうとしたのだが先にずっと黙っていたドラくんの口が開かれた。


「なぁ……本人の悪事を暴かなくても、俺たちが使い捨てにされているっていう証拠を集めて魔王様に見せれば済む話なんじゃない、か?」


「「…………」」


 みんなは、ドラくんの言葉に何も反応せずに無言のまま。だけど、さっき静まり返ったときのような苦しい沈黙ではない。まだ誰も一言もしゃべってはないけど、それはどちらかというと希望のような、明るい沈黙だった。


「それね」


 一番に沈黙を破ったのは、他でもない私。


 そうしてその後なんやかんやあり、みんなでドラくんの言った使い捨てにされているという証拠を集めるため、仕事場の資料室へと足を進めた。

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