第24話 説得
フーちゃんをみんながいる後ろに戻した。そして、みんなで意見交換をしようと円になってどうしようか考えていたとき。
「で、どうするんだ? あのピーピーうるさいやつを殺せば僕たちは外に出られるのか?」
アーサーは、聖剣を片手にそんな脳筋作戦を言ってきた。
(――そんなことしても、外に出られるとは限らないと思うんだけど……)
アーサーの言葉を聞いて、そんなことを思っていると私に捕まっているフーちゃんの手から力が入った。
「なっ……勇者よ。ピーちゃんはわれの友達ぞ。そんなことしたら、お主と敵対することになるがいいのか?」
その声はいつものかわいらしいフーちゃんの声ではなく、魔王として威厳があり圧がかかってくるような怖い声だった。
(――ん? なんか良くない方向に進んでる気がするんだけど……)
「はっ。お前なんか僕の聖剣で、一瞬で倒せるわ」
「……じゃあ、ためすか?」
どうやら、私の予想が当たっていたらしく二人は今まさに殺し合いを始めるかのような雰囲気になってしまった。
(――はぁ〜……もう、なんなのよこの二人は)
私は心のなかで、フーちゃんとアーサーに呆れながら「ねぇ……」といい完全に二人の空気になっていた中に入り込む。
「ちょっと二人とも、落ち着いて。今、私たちが喧嘩をしてたら意味がないでしょ」
「そうだな……悪かった」
「いやわれの方こそすまぬ」
二人は案外あっさり自分の非を認めて、お互いに謝った。意地が強そうな二人があっさり謝ったのが少し以外だったが、それはさておきと気持ちを切り替えて口を開く。
「真面目に、今からみんなでここから外に出る方法を考えましょう」
私がそう言うと、みんなが急に黙って眉間に眉を寄せた。
(――まぁ、ここから外に出る方法なんて私たちじゃあわからないし黙るのは仕方ないか……)
「…………」
そう思ってしまい、せっかく円になってみんなで考えようと思っていたのに静まり返ってしまった。
(――この空気が辛いからなにか喋りたいけど、外に出る方法なんてなんにも知らないし。でも、ピーちゃんが私たちを閉じ込めて悪感情を奪い取ってることは知ってる。ん? 悪感情……)
そこでたまたま、唯一ここから出られる可能性を思いついた。
「フーちゃん。もしかしたら、もしかしたらだけど私の過去の記憶を映像にして映し出せるようなものを作れたりするかな?」
「む? したいことはわかるんだけど……。そんな精密なもの、材料の価値が高くないといけなのだ」
フーちゃんは、そう言って渋い顔をした。
(――ものを変化させるためには、それ相応の価値があるものじゃないといけないのね。今、私が持っている一番価値があるものといえば……)
「じゃあ、このネックレスを使ってもらっていい?」
もともとこの純金はゴブさんのもの。ここに来て、ネックレスに変化させられてフーちゃんのことを魔王だと認識したもの。
(――これかなり価値はあるけど、フーちゃんに作ってもらったものだから怒らないかな……)
私は心配になって、フーちゃんが口を開くのを恐る恐る待つ。
「うぅ〜ん……それ、われがあげたやつだけどまぁいいのだ! それほど、作って欲しいんだな!」
フーちゃんは、嫌そうにしたけど私が作って欲しいと無言の訴えが効いたのか了承してくれた。
「うん。ありがとう」
そうして、フーちゃんはこれまで以上に作るものが精密なせいなのかその場に座り込んで精神統一を始めた。
(――あとは、うまく作ってもらってそれがピーちゃんにうまくハマるかどうかなんだけど……)
奥で一人、私たちのことを待っているピーちゃんのことを見ながらどうなるのか心配に思っていた。
そんなとき。
「ナルホド」
後ろからゴブさんがなにか感心しているかのような声が聞こえてきた。
どうしたんだろうと思い後ろを振り向く。
「カコノキオクヲエイゾウニスル……。モモ、アナタナカナカアタママワルナ」
どうやらゴブさんは、私がどうやってピーちゃんに外に出してもらおうとしているのかわかったようだ。そして、ウムウムと少し首を縦に振りながら私のことを見てきた。
(――まだ剣士だった頃。まともに褒められたこととかなかったから、そんな真正面か褒められると照れちゃう……)
そんなことを思っていると、自然と顔が下を向いてしまって褒めてくれているゴブさんのことを見ることができなくなった。
「おいらもそういう発想はなかったから、感心するぞ」
『! さすがモモ!』
急にガイガイくんと聖剣様がまくし立てるように褒め称えてきた。
(――いじめ? まさか私いじめられてるの?)
私はあまりにも過剰に褒めてくるので、まさかと思っていたのだが……。
「僕だけ、モモが何をしようとしてるのかわからないんだけど」
アーサーのそんなバカみたいな言葉を聞いて、目が覚めた。
*
ピーちゃんは、いつも腹ペコ。
それはなぜかというと、ピーちゃんは悪感情を奪って養分にしないと生きていけないから。そしてその悪感情をうまく、そして効率的に奪う方法は自分の体の中に引き込んで奪い尽くすこと。
「もう、なんなんだピー」
ピーちゃんは、いつものように引き込んで悪感情を奪おうとしたのだがその対象に外に出たいと言われ困惑していた。
(――いくらフースピーが、ピーちゃんのお友達だとしてもピーちゃんはそいつらを外に出したら生きていけないんだピー!)
ピーちゃんは奥でなにやら喋っている奴らを見て、そんなことを思っていた。
「ピーちゃん。ちょっといいかな?」
(――ようやく、外に出ない決心がついたんだピー?)
モモのことを面倒くさいなと思いながら、口を開いた。
「ピー? なんだピー?」
「これを見て」
そう言って目の前に出してきたのは、どこかの魔族たちが頑張ってなにかをしている映像。
(――ピー。もう、なにがしたいんだピー……。早く諦めてほしいんだピー)
ピーちゃんは、そう思いながら目の前に映像が出てきたので見なきゃいけないと思い変わり映えのない映像を渋々見ていた。
のだが、自然とピーちゃんは映像から目が離せなくなっていた。
(――あっ、終わったピー)
映像が始まったときは、「早く終わらないかピー」と思っていたのだが数分経って終わった今、「もう、終わっちゃったピー……」いうふうに考えが変わっていた。
(――今見たやつは、ここで見る悪感情の倍以上のものがあったピー)
そんなふうに思っていると、モモはピーちゃんと目を合わせるつもりなのか膝を曲げてしゃがみこんで覗き込んできた。
「どう? 今見たやつにたくさんの悪感情がなかった?」
「ピー! あったピー! それも、ものすごく新鮮で美味しそうなやつピー!」
(――もし、あんなのがピーちゃんの養分になったら最高だピー!)
「そう……なら、私たちのことをここから出して一緒にその場所にいきましょ?」
モモはそう言って、今度はピーちゃんの目の前に手を差し伸べてきた。
(――ピー? あれは、外に行かないとむりなんだピー? もしそうだとしたら……。うぅ〜ん、ここはピーちゃんのお家みたいなものだからここから離れるとなると悩むピー)
「私にはわからないんだけど多分、あの悪感情はどれよりも濃くてそれでいてとても美味しいと思うわ!」
ピーちゃんは、その言葉を聞いてどれだけの未知の美味しさが待っているんだろうと頭の中があそこにあった悪感情のことしか考えられなくなった。
「いくピーいくピー! ピーちゃん、モモたちと一緒に外に出ていっぱい養分を奪うんだピー!」
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