第23話 ピーちゃん



 周りは真っ白。

 ものなんて一つもなく、あるとしたら目の前の……。


「ピーピー。フースピー、いっぱい人をつれてきて一体何なんだピー?」


 と、ピーピーしつこい白くてまん丸の謎の物体。なぜ、私たちがこんな場所にいてこんな謎の物体の目の前にいるのかは少し前に遡る。

  

 なぜかアーサーとフーちゃんが仲良くなったのだが、私たちは依然としてタタリ族の中にいて外に出ることができない。


「ここから出る方法さえわかればなぁ〜……」


 私は独り言のようにそう呟いたら……。


「む? それならわれ、知っとるぞ」


 とフーちゃんは言って、流されるままこの場所にきた。そして私たちはここの支配者であり、タタリ族。通称ピーちゃんの目の前に来ていいて現在に至る。


「あっ、ピーちゃん! 実は、この人たちを外に出してあげたいんだけど……」


 フーちゃんは、私たちに見せる魔王としての威厳のような言葉遣いをせずにピーちゃんなる生物に、愛玩動物に向かって喋りかけるように喋りかけた。


(――フーちゃんかわいい……)


 私は、その言葉遣いを聞いて目の前にタタリ族がいるという状況にもかかわらずフーちゃんのことを目で追ってしまった。


(――いけないいけない)


 慌てて目線をピーちゃんに向けて、緊迫した空気の中に入る。


「フースピーのお願いはなんでも受け入れてたけど、さすがにそれは無理だピー」


「なっ……なんで?」


 無理だと言われたのがよほどショックだったのか、目をまん丸くして聞き返した。


「それは、ここに引き込んできたやつらはピーちゃんの養分になるからだピー!」


 ピーちゃんは、その場にぴょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねながらそんなことを言ってきた。


(――養分。このタタリ族であるピーちゃんのかわいらしい容姿を見ると、あんまり悪くはきこえないけど、実際言ってることはそこら辺にいる攻撃的な魔族よりひどいんだよね……)


 私は、ピーちゃんのことを見ながらそんなことを考えていると……。


「よ、ようぶん……? もしかして、知らないうちにわれもピーちゃんの養分になってたりする?」


 フーちゃんが、「はわわわ……」と口を手で抑えながら恐る恐る聞いていた。


「ピー? ここに引き込まれてきたやつらは、皆平等にピーちゃんの養分だピー。もしかして、知らなかったんだピー?」


「っ……」


 フーちゃんは、ピーちゃんのことを仲間だと思っていたのか裏切りにあったかのように「信じられないッ!」と今にも叫びそうな顔で膝を地面につけた。


(――まだ二人の掛け合いを見ていたいところなんだけど、そんなことしてたら私たちが外に出るのが遅くなっちゃう)


 そう思って、絶望しているのか地面に座り込んでいるフーちゃんの前を歩き進んでピーちゃんの前に行く。


「あの、私モモって言うんですけど、あなたがタタリ族でいろんな人たちをここに閉じ込めている元凶であってるんですよね?」


 念の為ピーちゃんに向かって聞いてみた。


「ピー。まぁお前たちはピーちゃんの養分だから、そういうことになるピー」

  

 肯定してきた。


(――……養分。さっきからこの中に引きずり込まれた私たちのことを養分だと言っているけどそれって一体どういう養分なのかな?)


 頭の中で、ずっと養分という言葉が引っかかっている。


「その……養分っていうのは、どういうのをさすんですか? 体力とかそういう感じのとか……?」


「いやそんなのじゃないピー。ピーちゃんが養分として奪ってるのは、嫌とか面倒くさいとかいう悪感情ピー!」


「悪感情……」

 

(――悪感情を養分として生きていくのなら、もしかしてここに引き込まれて養分を奪われた者たちは幸せな気持ちになっているんじゃないのかな?)


 もしかしたらピーちゃんがやっていることはいいことなんじゃないかと思ったけど、それは間違いだと思い考えるのをやめた。


 なぜならここに引き込まれた者は、望んでここに来たんじゃなくてピーちゃんが勝手に拉致したんだから。たとえ悪感情を奪って、幸せな気持ちになったとしてもそれは許されざる行為なのは違いない。


「そ、そうだったのか。ならもしかして、われからも悪感情を奪っていってたのか……?」


「いや、フースピーからは一切悪感情を奪えないから適当に遊園地で遊ばせてたんだピー」


「え! やっぱりあそこってピーちゃんが作った場所だったんだ。すごい楽しかったよ!」


「そ、それは良かったピー!」


 ピーちゃんへの怒りが、ふつふつとわき始めていたとき。急にフーちゃんとピーちゃんが仲良くなってしまったので、怒りだとかそういう感情が薄れていった。


「あの……なんか話がそれてるんだけど、私は早くここから出ていきたいんだけど」


「ん? そうであったな。ピーちゃん。なんとかできないのか?」


「それはできないのピー……。実を言うと、ピーちゃんは悪感情がない場所じゃないと生けていけないんだピー」


「そっか……それは仕方ないな」

  

 フーちゃんは、「こくこく」と首を縦に振りながら納得したかのような言葉を言った。


(――いや、仕方ないで済ませると私たちは一生ここから出られなくなっちゃうんだけど!)


「ちょっと魔王様。少し話したいことがあるのでいいですか?」


 少しむりやりフーちゃんの手を掴んで、後ろにいるアーサーたちの方に行こうと促す。


「む? ピーちゃん。少し待っておれ」


「はいだっピー!」

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