第21話 一方その頃アーサーは
「ここは……どこなんだ?」
さっきまで、黄金に輝く部屋の中にいたのだが気がついたら灼熱のマグマに囲まれている場所にいる。
額から汗が落ちていっているので、これは幻術のたぐいではない。
(――まさかここが、タタリ族に引き込まれた中なんじゃないか?)
今、自分に起きている状況を整理すると自ずと答えが導き出せる。
『アーサー。モモの心が見えなくなった。多分そういうことで間違い無いと思う』
「そうか……」
僕の心を読んでいた聖剣の言葉が決定打となり、ここがタタリ族の中だということがわかった。
(――でも、ここからどうやって脱出するのか。それと、おそらく一緒にここに来たであろうモモとゴブリンのことを助けに行かないといけない)
『アーサー。どうやら、そんなのんきに考えている暇ないみたいだぞ』
僕は、聖剣の緊張が伝わってくる声を聞いてどうしたのと思って顔を上げてみるとそこには……。
「グゥ……」
こちらのことを睨みつけて唸っているウルフのような魔族がいた。
(――まぁ、ここはタタリ族の中。こういう攻撃的な魔族も引き込まれているよな……)
僕はそう思い、戦うことを決意して地面に突き刺しておいた聖剣を抜き取って剣先をウルフに向ける。
『お? 久しぶりにひと暴れするか?』
聖剣の声は少し高くなり、どこか嬉しそうにしながら僕に向かって聞いてきた。
(――そんなこと聞かなくたって、立ち姿でわかるのに……。まったくこの寂しがりやの聖剣は)
「あぁ……行くぞ。相棒ッ!」
そう言い、久しく持っていなかった聖剣の重みを感じながら振りかぶり、思いっきり地面を踏み込んだ。
*
「はぁはぁ……疲れた……」
目の前に、息をしておらず倒れているウルフが山積みになっている。
一匹目のウルフは、簡単に倒せたのだがそのあと仲間らしき他のウルフの大群に襲われその後なんとか、勝つことができた。いくら最強の聖剣だとしても、一気にかかってこられたら捌き切ることが難しい。
『ん? もうスタミナ切れか? まぁ、最近戦闘してなかったと思うけどさすがに早くないか?』
聖剣は、息が荒くなり地面に膝をついている僕のことを煽るようにして言ってきた。
(――あれ? 僕たちって相棒だよね)
「……ここが、マグマに囲まれていて余計に体力が削がれていってるんだよ……」
(――さっきから暑くて、汗がおかしい具合で出てきてる。このままだと、脱水症状が出てもおかしくない。だからはやくどこかで水分を補充しないと……)
僕は、暑くて頭があんまり良く回っていないことがわかるけどいますべき優先事項を洗い出してそのために行動しようとしていたのだが……。
『あっ、僕は人族じゃないしそういうのわからないんだよ』
聖剣は、心が読めているはずなのに僕のことなんて考えていないようなことを言ってきた。
「うん。そんなの、見ればわかるよ」
『まぁ、僕は最強無敵の聖剣だからね。はっはっはっ!』
聖剣は、それはもう元気よく笑った。
(――僕の暗い心を笑って、とかそうとしているのかな?)
僕はそんなこと考えても、どうせ答えてくれないと思い考えるのをやめる。
(――この聖剣はいつも不器用で、僕とあんまり噛み合わないんだよな……)
僕は、もうどうでもいいやと聖剣のことなんて考えずに優先事項のことだけ考えようと思い立ち上がろうとしたのだが……。
「ギャリュリュリュ……」
ウルフが来たときとは真逆の方からまた、なにか攻撃的な魔族の鳴き声が聞こえてきた。
『ん? また別の魔族が来たみたいだね』
「おいおい、まじかよ……」
僕は魔族が近づいてきていることはわかっていたけど、聖剣に来ていると断言されてため息を隠すことができなかった。
(――正直、体力はもう底をついてるんだよな……)
僕はそんなふうに、嫌になっていると……。
『ほら立って! 君は勇者だ。こんなところでくじけちゃいけないぞ!』
聖剣は、なんの具体的なことを言わずに僕のことを立ち上がらせようとしてきた。
(――まぁ、そんなこと言われなくても立ち上がらないと死んじゃう運命なんだよね)
「はいはいわかってますよ」
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