第16話 勇気
「いいか。タタリ族っていうやつらはな、近くに来たやつをどんどん体の中に引き入れていって巨大化していくんだ。だから、もし引きいられようになったら全力で抵抗しろよ」
私が助けに行くと宣言したあと、アーサーはそんなことを真剣な顔をしながら言ってきた。
正直、引き入られるつもりはない。だって今の私は雑務をしているただの人族かもしれないけと、少し前までは魔族と前線で戦っていた剣士。
そんなふうに、自分の心が怯えないように暗示ていたのだが剣士として大事な剣がないことに気づいた。
(――やばい。やばい。どうしよう!)
私は、このままだと戦うことなんてできないことに気づいて部屋の中でなにか使えるものがないのかとあたふたしていると……。
「コレ、ツカエバイイ」
ゴブさんは、そう言って私に純金で出来ているであろうものすごい重い剣を渡してきた。
そしてそれから装備がたりないと私とゴブさんの間であれやこれやあり、盾代わりの純金のお盆と純金のヘルメットを被ってガイガイくんがいなくなったであろう、資料が錯乱している部屋の扉の前に来ていた。
「ふぅ〜……」
隣には、今から始まるであろう戦いに備えて深呼吸を繰り返しているアーサーがいる。その横顔は、真剣そのもの。そして、雰囲気はいつかの人族希望の勇者そのものだった。
「ねぇ、やっぱり私たちだけじゃなくてもっとたくさんの魔族さんたちと一緒に行ったほうがいいんじゃない?」
私はいくらアーサーが勇者だとしても、見えずに何が敵なのかわからない場所を前にして怖気づいてしまった。
(――別に、アーサーの力を過信しているわけじゃないけどタタリ族がどんなのかもわからない状況で戦うのは危険すぎると思う。第一に、多分知っているであろうガイガイくんもやられちゃったんだから……)
「いや……そんなことしたら、鬼上司に仕事以外のことを勝手にしてるってバレちゃうぞ?」
「そっか……。それもそうね」
(――多分この仕事は、誰か一人がタタリ族というのに犠牲にならないといけない仕事。なのでもしバレたら、どんなペナルティが課せられるのか想像もつかない。もしかしたら、クビになるかもしれない)
私はこれから、バレたら終わりのことをしてしまうということに気がついてわずかに身震いした。
「なに、大丈夫。聖剣をもった僕がいるんだ。タタリ族なんかにモモのことを引き入らせなんかしないさ」
そんなカッコつけているようなアーサーの言葉に、私は本物の勇者みたいだと嫌気がさしながら、少し頼もしいなとも思いながら部屋の中に足を踏み入れた。
*
「何があるかわからないから、絶対に足元のものは触るんじゃないぞ……」
「わ、わかった」
私はそう言って、アーサーが歩いた足跡を辿って同じように歩いていく。これだけでわかる通り、部屋の中に足を踏み入れたのは私が先だったけど今前にいるのはアーサー。
「それにしても、なんでこんなに部屋中が荒れてるんだ? ガイガイが抵抗したあとかなにかなのか?」
アーサーは部屋の中を見渡しながら不思議そうに、聞いてきた。
部屋の中は、他の場所とは変わらずに金ピカ。だけど、ものが整理整頓されておらずテーブルが倒れていたり壁に掛けてあるはずの絵画が地面に落ちている。
(――周りを見ると、アーサーのガイガイくんが抵抗したあとという表現は的をえているきがする)
「そう考えるのが妥当よね」
私は、仕事中とは全く違う久しぶりな頼りになる勇者としてのアーサーの大きい背中を見ながらそう返事をした。
そして、今のところはすべて順調。
そう思っていたけど、次の瞬間すべてが崩れることになる。
「イヤ、コノヘヤハモトモトコンナカンジデチラカッテタゾ」
後ろからカタコトな言葉使いの、聞き覚えのあるゴブさんの声が聞こえてきた。
「「え?」」
私とアーサーは、ここにいるはずのないゴブさんの声を聞いて反応の言葉がハモった。そして、意図せずに同時に後ろを振り返った。
「ナンダ?」
ゴブさんは、あたかも自分がここにいるのが当然かのように素っ頓狂な顔をしながらそんな聞いてきた。
(――なんだって……こっちが聞きたいわよ)
「なんでついてきてるんですか?」
「厶? ダメカ? ソレヨリハヤクススンデクレ」
ゴブさんは私の問いかけに答えることをせず、足が止まっている私のことを嫌そうな目で見てきた。
(――私、ゴブさんのことを守れる自信がないけど。まぁ、勝手に着いてきて引き込まれたりでもしてもそれは自己責任よね)
「わかりました……」
私は、渋々前を向いて足を進めようかとおもったのだが……。
「あれ? アーサー……? どこいったの!?」
前にいたはずのアーサーの姿がなかった。足跡が見えないので、先に前に行ったとは考えづらい。
(――本当に、どこに行ったのかしら)
「ゴブさん。アーサーのこと……」
私は、後ろにいるゴブさんならなにか知っているんじゃないかと思い振り返ったのだが景色が一瞬で変わった。
「ざぁ〜……ざぁ〜……」
耳に入ってきたのは、聞こえるはずのない波の音。
視界は真っ暗で、どこに何があるのかまったく見えない。
「ここ、どこ?」
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