第15話 タタリ族



「ガイガイくん!?」


 私はすぐに後ろから聞こえてきた悲鳴の正体がわかった。


(――でも、なんで悲鳴が聞こえてきたの?)


 ガイガイくんは、部屋の中で私のように書類の項目にチェックをいれているはず。

 でも私はそれだけで悲鳴が聞こえてくる理由にならないと思った。そしてそう考えると、アーサーたちのことなんてとうでもよくなり急いで部屋の中に入ろうとしたのだが……。


「チョットマツノ!」


 先程までかわいい顔をしていたゴブさんが、眉間にシワをよせ真剣な表情で私の目の前に立ちふさがってきた。


(――なんで、そんなことするのよ!)


 礼儀正しくしないといけないゴブさんが目の前にきたのだけど、私の心の中はどうにかなっているかもしれないガイガイくんのことしか考えられなくなっていた。


「何をするんですか! 今あなたも、ガイガイくんの悲鳴を聞いたでしょ。早く助けに行かないと!」


「ダメネ、ダメネ。ガイガイガ、ヒメイヲダシタトイウコハアッチデタタリゾクガデタノネ」


 ゴブさんは、ガイガイくんの悲鳴を聞いたにもかかわらず私とは全く逆で冷静になだめようとしてきた。


(――タタリゾク? 一体それはなんなの??)


「おい、お前今タタリ族って言ったか?」


 疑問に思っていると、先程まで聖剣様のことを抱きしめいてたアーサーが何食わぬ顔で私たちの会話の中に入ってきた。


「オ? イッタネイッタネ。ナンダ、ジンゾクノユウシャ?」


「いや……タタリ族って歴代魔王の一人を倒したと言われてるあれか? そのタタリ族がここにいるってことか?」


 アーサーは真剣に、私よりゴブさんの前に立ちながら問いかけた。


(――タタリ族。私はそんなの知らない。……というか、歴代魔王の一人を倒したと言われているタタリ族が部屋の中にいるってことは、まさかガイガイくんはそいつにやられたんじゃ)


「オウ。イルネイルネ。ダカラ、ガイガイトモモガココニチョウサにキタノネ」


 ゴブさんは至って平然に、タタリ族がいるのが当たり前かのように顔色1つ変えずに言ってきた。


(――……え? 私ってタタリ族とかいうのを、調査するために来てたの!?)


 私はここに来た理由を初めて知って何も突っ込むこともせずに、唖然として二人の会話を聞いていた。


「いるのかよ……。じゃあもう、タタリ族に襲われたっぽいガイガイっていう魔族はどうするんだよ。まさか、見捨てるのか?」

 

 アーサーは、一歩ゴブさんに近づいて重く低い声で睨めつけるような顔で問いかけた。

 その声は、ゴブさんのことを脅しているようなそんな声。


「ミステルネ。ミステルネ。ソノタメノチョウサデ、マイトシヒトリガギセイナノネ」


 ゴブさんは、アーサーの脅しに一切怯える素振りを見せずなんの悪びれもなくガイガイくんのことを見捨てると言ってきた。


(――なっ! さっきまで、あんなに楽しそうに話していたのになんでそんな非情なこと言えるのよ……)


 私はてっきりガイガイくんと、ゴブ様さんは距離が近かったので友人だと思っていた。なので、ゴブさんがあっさりガイガイくんのことを見捨てると言ってきたので怒りを覚えていた。


「モモはこのこと、知ってたのか?」


 アーサーは、ゴブさんに呆れたのか次は私の顔の目の前に来て睨めつけながら聞いてきた。


(――怖い……。それだけ、タタリ族っていうのが脅威の種族だったのかな?)


「いや、そんこと知らない知らない。知ってたら大好きなキャットシーであるガイガイくんのことを、身代わりにするようなことなんてしないよ!」


 私は、自分の身の潔白を信じてもらいたいと目の前にいるアーサーに向かって叫ぶようにして言った。

 するとアーサーは……。


「そ、そうか……」


 と、興奮している私のことを察してなのかそれともただただ声がうるさかったからなのか、距離を取ってきた。


(――なんか、悪いことしゃちゃったな……)


 私はさすがに、目の前で叫ぶのは良くなかったのかと心の中で反省しつつ、顎に手を当てて考え事をしているアーサーの口が開くのをまつ。


「じゃあ、今なら見捨てることもできるけどモモはどうする? 助けに行くんなら、僕も手伝うよ」


 アーサーは、右手に持っている聖剣様のことを私に見せながら自信満々に聞いてきた。


(――私が大好きなキャットシーであるガイガイくんのことを、見捨てることなんてできるはずがない)


「そんなの、助けに行くに決まってるでしょ」



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