第14話 尊い再会
「聖剣……やっぱりあなたって、あの有名な聖剣様ですよね?」
『あぁ……そうさっ!』
目の前の、柄がベランダの地面に埋まっている聖剣様は元気よく私が言ったことを肯定してきた。
(――聖剣様だって言うことはわかったんだけど、なんでこんなところにいるんだろう?)
私は、質問しようかと思ったけど慌ててやめた。なぜなら、人族の希望である聖剣様に失礼だと思ったから。
「『…………』」
私と聖剣様の間に嫌な沈黙が流れてしまう。
(――なにも、喋らないよりかはいいかな……)
そう思い、少し躊躇ったけど沈黙には勝つことができずに恐る恐る口を開いた。
「あの……失礼を承知で聞くんですが、一体こんなところで何をしているんですか?」
『僕のことは、選ばれた者にしか持つことがでにないことは知っているだろ?』
「はい……あと、選ばれた者は勇者になるのだということも知ってます」
知っているというよりか、聖剣様に選ばれた者が勇者になるということは常識。なので私は、聖剣様がなぜそんなことを聞いているのか疑問に思わず口にした。
『それなら、もうわかるのよね! 僕は、アーサーくんにここに放り投げられてそのまま放置されたのさ。誰も動かすことができないから、ここにいるのさ!』
声を大にして言ってきた。
(――誰も動かすことができずに、放置されているのになんで聖剣様はこんなにも楽しそうに喋っているんだろう……?)
私は、久しぶりに話し相手が来たからなのかと状況と言葉を聞いて率直に考えた。
「それはなんていうか……大変ですね」
『あぁ……大変さ!』
聖剣様はどこか清々しく言い放った。もし手があったのならば、グッジョブサインをしていたように清々しい。
(――もし私が動けずに、信頼していた人に放置されたら寂しくて泣いちゃうかもしれない。そんな状況なのに、聖剣様は大変だとしか思っていないなんてさすがだわ……)
「――コツコツ」
私は、聖剣様のすごさを実感しているとベランダの扉の方からこちらに近づいてきている足音が聞こえてきた。
(――足音が聞こえてくるっていうことは、少なくともキャットシーであるガイガイくんではない)
そう考え、だとしたら近づいてきているのは一人しかいないと思い顔を向ける。
「ドウシタモモ? ズットケンニムカッテ、ヒトリデシャベッテ?」
ゴブリンもとい、ゴブさんは首を傾げながら私のことをなにか変なもののように見てきた。
(――どうしたんだろう?)
「……え? いや、一人じゃなくて聖剣様と喋っているんですけど……聞こえませんか?」
「ナニヲイッテルノダネ?」
私は、ゴブさんにわかりやすく聖剣様のことを指さしながら言ったのだが理解できていなった。
(――なんで、わからないんだろう……)
なぜなのか? そんなの理解してもらうのが面倒くさくなったので、ゴブさんがなんでここに来たのか考える。
(――声が大きかったのかな?)
ゴブさんがここに来た理由なんてそれしか考えられない。
私はそう思い、口を開こうとしたとき。
『僕の声は人族の選ばれた人しか聞こえないんだ!』
聖剣様の、遅れた補足説明のようなものが聞こえてきた。
「そうなんですか……」
(――そんなの知らなかった……。というか、人族にしか聞こえないのなら私がゴブさんに説明しようとしているときに、言ってくれればよかったのに)
私は、まさか聖剣様が知っていて意地悪をしたのかと思っていると……。
「聖剣ッ!」
なんの予兆もなく急に金髪の男が、大声で叫びながら目の前に現れた。
「きゃ!?」
いきなりのことだったので、ビビリにビビって腰を抜かしてしまった。硬く、冷たい地面にお尻をつけて動けない。
(――ま、まさかゴブ様の知り合いなのかな……?)
私は、ビビって体がカチコチに固まっていて動かせないので首だけ動かすと……。
「ナンダネキミ!?」
ゴブ様も私と同様驚いて、同じように地面にお尻をつけていた。
(――じゃあ、この目の前にいるボサボサな金髪男は一体だれなんだ? ん? ボサボサな金髪で聖剣様のことを知っている男って……)
私はその特徴にハマる一人の男を知っている。
(――私より仲がいい聖剣様より先にいうのは、申し訳ないよね)
『アーサーくんかい!』
聖剣様の声はよほど嬉しかったのか私と喋っているときより、数段嬉しそうな声に聞こえる。
「あぁ、そうだ! 久しぶりだなッ!!」
アーサーはそう言って、聖剣様に向かって思いっきりハグをした。
(――剣が思いっきり体に当たってるのに痛くないのかな……?)
私はそんなのんきなことを考えていた。けれど、あれだけ労働が楽しくなっていた変人に変貌していたアーサーが、嬉しそうにしているのを見てなんか見てるこっちも嬉しくなってきた。
後ろ姿なので、どんな顔をして喜んでいるのか見えない。
(――あぁ〜あ……。顔を覗き込んでムフフしたいんだけどこういう、最高の再会には水をさせないなぁ)
私はもう動けるようになった体で、少し後ろに下がり尊い二人の再開を見ることにした。したのだが急に後ろから、トントンと申し訳無さそうに肩が叩かれた。
(――ん? ゴブさんかな?)
疑問に思いながらが後ろを振り返ってみると、案の定ゴブリンだとは思えないほどきれいなゴブさんの手が私の肩に乗っていた。
「モモハ、アノオトコノコトヲシットルノカネ?」
ゴブさんは、尊い二人のことを指さしながら聞いてきた。
(――あっ、そっか。ゴブさんは、アーサーたちのことをなんにも知らないんだった。そりゃあ、急に現れて剣に抱きついている男のことが気になるよね)
「さっきいきなり現れたのが人族の勇者で、あの剣が聖剣様です」
「オォ〜! ソレハスゴイネスゴイネ。コンナトコロニ、ジンゾクノキボウガイルナンテ!」
私がわかりやすくゴブさんの指している指を動かしながら二人のことを紹介すると、ゴブさんはおもちゃを貰っときの子供のように目をキラキラとさせてきた。
(――なにその表情……)
私は、そんな表情を横から見てゴブさんのことをゴブリンだと忘れ、かわいらしく思っていた。
(――いやいや……今、仕事中なんだった)
そう思い出して今もなお、剣に抱きついているアーサーにひと声かけようとしたとき。
「ぐおッ!!」
後ろ。
突然部屋の中から、ガイガイくんのくるしそうな悲鳴が聞こえてきた。
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