第13話 ○○様



 仕事を始めると言ったガイガイくんはまず、よくわからない大量の資料を渡してきた。どうやら、これにこの部屋にあるものにチェックを入れていけばいいらしい。


 私は、現地調査なのでもっと観察するとかそういうのだと思ってた。なので、なんでそんことをしないといけないのか聞こうとしたのだがそんな暇はなかった。


 部屋の中にあるものをチェックするといってもそれは、ものすごい重労働になる。この部屋には大量の小物。そして、ちらっと大量なものをおいてある膨大なベランダも見えた。


 分担として、ガイガイくんは部屋の中。私は膨大なベランダのすべてを担当することにした。


「もう少し、説明してくれたっていいじゃん……」


 私はそうつぶやきながらベランダに入った。


 ベランダには、外の様子など一切見えないほど大量の家具がおいてある。それも、部屋の中にある家具のように金ピカのものが。


(――これを、チェックしていけばいいんだよね……?)


 私は、ガイガイくんに詳しく調査の仕方を聞いていなかったのでよくわからないまま資料の項目にチェックを入れ始めた。


「イス、イス、イス」


 項目をチェックしていると言っても、一見同じようでどこが違うのかわからないイスばかりで目が狂いそう。


(――なんでこんな大量な量、ガイガイくんと二人だけでやらないといけないのよ……)


「はぁ〜……」


 私は、先の遠くなる作業を目の前にして口から自然とため息がでてきた。


(――でも仕事は仕事。なにかミスでもしたら、鬼上司に怒られるのが末路として見えてくる。気を引き締めないと!)


 私はそう思ってほっぺをを叩いて、気合いをいれ直す。

 その時だった。


『ねぇ、そこの君。ここだよここ!』


 不意に耳の中に聞き覚えのない、男性の声のようなものがした。


「ん?」

 

 私は、あたりを見渡してみるけどそんな声の主を見つけることができない。


(――疲れすぎてて、幻聴でも聞いたのかな……)


 そう思うことにして、仕事を再開しようと思ったのだが……。


『ほら視界の右端になんか、布が被っている突起物がないかい?』


 私は、幻聴だとしてもおもしろいと思って視界の右端に何があるのか見てみる。

 たしかにそこに突起物見たいなものがある。ただけどそれは、白い布に被さっておりどんなものなのかわからない。

 

(――気になって集中できのなら、少し見るくらいならいいよね?)


 私はそう思い、仕事をするのなんて後回しにして突起物のある目の前まできた。


(――こうやって私のように、人族のことを油断させて実は攻撃的な魔族だったらどうしよう……)


 目の前に布が被っている突起物がある。だがそんなことを不安に思って布を取ることをためらっていた。


(――いやこんなことで躊躇ってどうする!)


「とりゃ!」

 

 私は剣士だった頃の勢いや窮地に立たされたときの覚悟を思い出して意を決し、布を思いっきり下から取った!


『やぁ!』


 そこにあったのは、銀色で細長いもの。日差しで、銀色がピカピカと光っていて眩しい。突起物だと思っていた先端は、鋭く尖っている。


(――まさかこれって……)


 私は同じようなものに見覚えがある。


「あの、これってあの聖剣様じゃないですか……?」


『そうさ! 僕は、選ばれた勇者にしか扱うことができない聖剣さっ!』




  *



 僕は、どこにでもいる少年だった。少しやんちゃをして、みんなの前に立って目立ちたがるような普通の少年。あの聖剣を抜くまでは……。


 聖剣のことを地面から抜いたあの瞬間。あれから僕は、どこにでもいる少年ではなくたった一人の選ばれた勇者となった。


 そして人族の希望になり、あらゆる国に攻めてきた魔族を殺して殺して……。そして、毎日殺してまだ幼い魔族の命を奪った。それが、希望で人族みんながいや世界が望んでいるのだと信じて。


 だがいつの間にか、人族の希望と言われ戦うことが重荷となっていた。そしてトラップに引っかかるという、初歩的なミスをしてしまったのだ。


 んで仕事三昧の今に至る。


 正直僕は、ここから逃げ出そうなどとは思わない。だって、ここから出たらまた勇者として人族希望にならないといけないから。あんなことをするよりここで、働いていたほうが気が楽なんだ


 気が楽と言っても、どんな生物でも疲労は溜まっていくからこれも大変なんだけども。


「はぁ〜……。僕は一体いつまで、こんなことをしてないといけないんだ……」


 僕は、居残りの資料整理をしながらため息のように呟やいた。


(――こんな声を出しても、何も変わらないんだけど……)


 正直、今のこの労働には不満を持っている。僕はまだ初めて3ヶ月ほどなのだが、周りの魔族がかなりの数いつの間にかいなくなっていることに気がついた。つまりは、クビになったのか死んだかの二択だ。


 僕は、最近見かけなくなったやつらの魂を見つけることがときない。なので死んだと考えるのが妥当だろう。


 なので僕は、今一緒に資料整理を手伝ってくれているドラくんがリーダーのハタ改会に積極的になって話し合いをしようとした。


(――はぁ〜……)


 僕は何も変えることができない現実に心のなかで、深いため息をついた。下を見てみると機械的に資料整理をしていた両手がいつの間にか、手は止まっている。


 僕の隣にはいつも、聖剣がいた。それだけは、鮮明に勇者としての重荷とは思わず良い記憶だと覚えている。

 

(――もしいまここに、聖剣がいたらどんな声をかけてくれているんだろう)


 そんな、夢のまた夢のようなことを考えながら渋々手を動かそうしたその時だった。

 

『ねぇ、そこの君。ここだよここ!』


「へっ!?」


 僕は、もう聞こえるはずのない声が直ぐ側に心に聞こえてきたので思わず変な声を出してしまった。

 

 その声は、毎日に聞いていた声。

 その声は、頼もしい声。

 その声は、懐かしい声。


(――なんで……なんで、の声が聞こえてくるんだ?)


 僕の心はぐちゃぐちゃだった。

 選ばれた人族にしか聞こえない聖剣の声が一度、勇者をやめて魔族の場所で働いている僕なんかの心に直接聞こえるなんてありえないんだから。


「急に、変な声なんかだしちゃってどうしたんだいアーサーくん?」


 ドラくんは、慌てた様子で僕のことを心配してくれている。


(――あぁ……君は、なんていい魔族なんだ)


 僕は、モモの友人だという時点でいい魔族だとは確信していた。だが、こうも目の前から心配されると、魔族だとは思えないと実感する。


「あ、いや。なんか、懐かしい声が聞こえてきた気がして……。多分、幻聴だったと思う」


「そっか。アーサーくんは、幻聴が聞こえるくらい疲れてるんだね」


 ドラくんは、僕のことを落ち着かせたいのか安心させたいのかわからないがニッコリと心が溶けるようないい笑顔をしながら言ってきた。


(――疲れたなんて……多分、僕より君のほうが仕事をこなしているだろうに)


 僕は、ドラくんが手元に持っている資料を見て同じ時間に始めたというのに整理するスピードが段違いだったことに苦笑いをする。


『ほら視界の右端になんか、布が被っている突起物がないかい?』


 またもや、聖剣の声が僕の心に聞こえてきた。


「どれ?」


 問いかけてきたので、反射的に聞き返してしまった。


(――やば……。また、変に心配させちゃう)


 僕は慌てて、なかったことにしようとしたのだが先にドラくんの口が開かれた。


「やっぱり、アーサーくん疲れているみたいだね。資料整理なんて俺一人でできるから休んできていいよ?」


 ドラくんは、僕が持っている資料を子供から取り上げるようにしてそう言ってきた。


 僕の心は休むわけにいかない。そんな気持ちと、一度休むと言って聖剣の居場所を確認したいと言う気持ちにはさまれて迷っていた。


(――ドラくんに、負担をかけるのは申し訳ない。だけど、それ以上に聖剣のことが気になる)


「ありがとう。そうするよ……」


 僕は本当はあまり疲れていないのに、幻聴と嘘をついてドラくんに仕罪を押し付けるようなことをしたことに悪感を覚えながら扉を締めた。


(――ごめん)


 謝りながら、声が聞こえてくる方に足を進める。


『そうさ! 僕は、選ばれた勇者にしか扱うことができない聖剣さっ!』


 また聖剣の声が聞こえてきた。


(――そうさ?)


 僕は、独り言にしてはおかしい言葉の言い回しを聞いて頭の中でなにかが引っかかった。

 だって、その言い回しはまるで……。


「誰かと話してるのか……?」

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