第12話 見かけによらないゴブリン
「いいか。今からおいらたちがいくゴブリンっつう奴らがいる場所に入ったら、絶対敬語を使えよ。あいつら、めちゃくちゃ礼儀に厳しいからな」
仕事場から離れる前。
ガイガイくんは、そんなことを口にしながらテーブルから飛び降りていった。
(――礼儀に厳しいって、あのゴブリンが?)
言葉の意味を、ずっと心の中で考えながらガイガイくんが進む道の後ろを歩いて続いていった。
途中、マグマの滝みたいな場所だったり白骨死体が留置されているような場所を通りかかったきがする。だけど私は、ゴブリンが礼儀に厳しいというありえないことを言われそのことを考えていたのでそれらに興味がいかなかった。
「おう、モモ。着いたぜ」
すると突然ズボンの裾を引っ張られたと思うと同時に、ガイガイくんの声が聞こえてきた。
(――え!? もうついたの!?)
私は疑問に思いながら、ガイガイくんの前にある扉を見て絶句した。
あるのは、金ピカでできている大きな扉。
その扉は、私が知っているゴブリンが住んでいる場所のイメージとは大きくかけ離れていたものだった。
「いいか、入ったら敬語。敬語だからな?」
「はいっ!」
ガイガイくんは、私の返事を聞いて満足したのか「ふぅ〜……」と肩から力を抜いて深呼吸をした。
(――そんなに、今から現地調査にいくゴブリンがいる場所は緊張するのかな?)
「――コンコン」
ガイガイくんが、ノックをしたので自然と私の体にも力が入る。
「ダレー?」
聞こえてきた声は、発音がおかしかった。
「おいら、現地調査にきたガイガイというものです」
ガイガイくんは、カタコトの声に返答した。それも、自分であれほど敬語を使えって言っていたのに一人称がおかしい。
(――ガイガイくんが返答したってことはカタコトな声の人物が、現地調査するのにかかわっているのかな?)
「オォ〜ソウカソウカ。ナラ、ドウゾハイッテ」
「失礼します……」
ガイガイくんは、扉の奥から聞こえてくる声に向かって一礼して扉を頭突きで開け中に入っていく。
「私も……」
私もガイガイくんと一緒にきたので、礼儀正しくしないといけないということを思い出し一礼して、ガイガイくんの小さな後ろ姿に続いて部屋の中に入る。
「すごっ……」
私は、部屋の中に入りその中の異常さを見て思わず驚きの声が漏れてしまった。
(――うっ……まぶし)
異常というのは、その部屋の中すべてのものが黄金のように金ピカだったから。
(――あの金ピカの扉は、ほんの序の口だったんだ……)
ガイガイくんは、私が部屋の中をキョロキョロと不審者のように見渡しているのを無視して歩き進める。進んでいく先は、さっきのカタコトな声の主であろうゴブリン。
ゴブリンといっても、外見は知っているものとはあまり似ていない。ちゃんと体にも肉があり、私が知っている野蛮なゴブリンとは全く真逆のものだった。
そんなふうに、ゴブリンのことを観察しているとガイガイくんの体はピタリと止まった。
(――どうしたんだろう?)
私は気になって、ガイガイくんの前を見てみる。
(――あっ。もう、ゴブリンの目の前に来てたんだ)
どうやら、ゴブリンのことを観察していろんなことを考えていたせいで足だけが勝手に進んでいたらしい。
「ゴブ様。お久しぶりです。おいら、去年もここに現地調査にきたガイガイです」
ガイガイくんは、そう言って猫背で有名なキャットシーではありえないほど腰をきっちり曲げてゴブリンに向かってお辞儀をした。
(――お辞儀したほうがいいのかな……?)
私は、礼儀正しくするためにはガイガイくんに続いたほうがいいのかと、長年剣のことばかり考えていた単細胞の脳をフル活用して考えてみる。
そんなことをしていると……。
「オッ。ヤッパリソウダナ! ホラ、オイデ」
ゴブリンは、私のことなんて目に入っていないのか意味深にガイガイくんの目線に合わせてしゃがみこみ両腕を広げた。
(――まさか、このゴブリン。あれをするんじゃないか!? 全キャットシーファンが、夢の夢に見るあれ……)
私はそう思い、つばを飲み込んでいると……。
「よっ」
ガイガイくんは、そんな掛け声のようなものと同時にゴブリンに向かってソフトにジャンプした。
(――や、やっぱりか!)
「ムフフ……ヤッパリ、ガイガイノカラダハヤワラカクテダイスキ」
やはり、私の予想通りガイガイくんはゴブリンのうでのなかに入った。つまり、抱っこされたのだ。
「あ、ありがとうございます……。ですが少し、恥ずかしいです。実は今日、おいらの後輩も連れてきてるので……」
「ム? コウハイ?」
ゴブリンはガイガイくんの言葉に、ようやく私がいるということに気づいたのか目線が初めて私の目とあった。
(――なっ……)
私は一瞬、ゴブリンらしからぬ鋭い目に体を貫かれたので口を開いて動けなくなった。だが、このまま固まったままなのはよくないと思いカチコチに固まった体を腰から曲げる。
「えっと……私、最近ガイガイさんと一緒の場所で働き始めた新人で人族のモモです! 今日は、よろしくおねがいしますッ!」
(――挨拶をするのが、一つ遅くなっちゃったけど大丈夫かな……?)
そんなふうに礼儀にこのゴブリンが正しいということを思い出しながら心配になりつつも、ゴブリンの返事をが来るまで頭を下げ続けていた。
「オ。ワレハ、ゴブ。ヨロシクネ。ヨロシクネ」
どうやらゴブさんは、私が挨拶をするのが遅くなったことをあまり根に持っていないのか普通に挨拶を返してきた。
(――よ、よかったぁ〜)
私は、思わず心のなかで安堵のため息をついた。
「あのぉ〜。そろそろさすがに、仕事の方に移りたいので降ろしてもらっても……。あっ、仕事が終わったら続きをしていいので」
ガイガイくんは、ゴブさんに向かって申し訳無さそうに言った。
するとゴブさんは……。
「オ。ワカッタ」
「よっと……」
腕の中で抱っこしていたガイガイくんのことを、随分あっさり地面に戻していった。
(――このゴブさん、ちゃんと場をわきまえていていちキャットシーファンとして理性に勝ったところを見習わなければいけないな!)
「ジャア、ガンバリマセヨ」
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