真空で漂う星と海月

@Ko_sO

真空で漂う星と海月

サアァーと簾が靡くような雨音で目が覚めた。

カーテンに手を伸ばし身体を起こして寝ぼけ眼で外を見る。

霧のように細かく傘をさしていても身体濡れてしまいそうな雨だ。

折角出掛けるのにこんな雨だなんて。

「おーい、起きて。おーきーろー。」

横に寝ている彼女の身体を揺すり起こす。

うぅんと唸りながら身体を伸ばし、もにゃもにゃとこれまた寝ぼけた声で挨拶をしてくる。

「んぅ〜〜、おはよぉ〜……ありゃあ雨かぁ。」

ぼさぼさの髪の毛を手で直してあげながらおでこにキスをすると、私の胸にぽすんと寄り掛かってくる。

暖かい体温でこちらもまた眠くなってきてしまいそうだ。頭を撫でながら今日の予定を聞く。

「ねえ、水族館どうしようか。雨だしやめとく?」

「うぅ~ん雨だからこそ水族館に行くんだ。私達もお魚になった気がしない?」

「傘を差して雨の中を歩く…クラゲみたいだね。」

二人で見つめあい笑い合う。

ベッドから出て朝食を取り、出掛ける準備をする。

レインブーツを履き、傘を手に取ろうと伸ばすとと後ろから彼女が傘を取る。

「傘は1つでいいよ。」

いつも一緒に1つの傘。

彼女の反対側の肩が濡れるのが嫌。

私の肩を抱く細い手が濡れるのが嫌。

だから私は1つでいたくない。


平日というのもあるのか水族館は人が少ない。

仄暗い室内に様々な水槽がひしめく部屋。

小さい頃ここが怖かった。まるで自分もこの水槽に閉じ込められているようで。

もしかしたらあちらから見たらそう見えるのかもしれない。

社会という狭い箱に入り、普通という名の蓋をされている私達はここにいる生き物よりも自由はないのではないのだろうか。

閉塞感で息ができない。

酸素が欲しい。

自由が欲しい。

堂々と彼女と歩ける世界が

欲しいの。

少しの恐怖と閉塞感で胸が潰されるような感覚に襲われる。

そんなとき、

「あっ、あっちはクラゲだって。行こうよ。」

彼女が私の手を握り連れていく。

やっと息ができた。

彼女の背中を見てあぁ、生きていると脳が呟いた。

あなたがそばにいるだけで息ができるの。

あなたは知らない。


クラゲの水槽は真ん中にベンチが数個置いてあり、そこを中心に壁に水槽がはまっており色んな種類のクラゲがいる。

小さいクラゲや触手の長いクラゲ。

ふわふわ

ゆらゆら

揺蕩う

揺蕩う

星のように、月のようにふわりと浮いている。

「わぁ、綺麗…。ふふ、可愛いね」

「座って見ようか。」

丸い大きな水槽の前にあるベンチに一緒に座る。

重量のない宇宙はきっとこんなふうなんだろうと思わせるようにクラゲは揺蕩っている。

静まり返った部屋は段々時間が止まったような感覚になる。

薄暗さと部屋の温度がとても心地良い。

ちらりと彼女の横顔を見る。

綺麗な鼻筋に目はキラキラと水槽の光が反射している。

私の目にはあなたしか映っていない。

ずっと、ずうっと私だけの。

私の視線に気付き、やっとこっちを振り向いた。

「どうしたの?恥ずかしいなぁ。」

その顔は少し照れていて、すらりとした温かい手で私の頬を優しく撫でる。

お願い。

やめて、離れなくなるから。

でもやめないで。このまま。

ずっと、ずうっと私だけのなの。

だからこのままクラゲみたいに2人の世界で揺蕩いたい。

なんにもなくていい。

私にはもう在るから。

彼女の肩に頭を載せ手を握る。

ふわふわ

ゆらゆら

星のように、月のように

あなたは

私の

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