最後まで推し活

アキノリ@pokkey11.1

365の手紙

推し活というキッカケをくれた.....神野みく。

俺が2年前まで推していた日本一の俺の幼馴染のアイドル。

付き合った事は.....結局事情で無かったけどそれでも大切な人だった。


どれだけ大切かといえばこの世界が滅んでも。

残ってほしいぐらい大切な存在だった。

因みに、だった、というのは何故か。

それは今はみくはこの世に居ないからだ。


俺は2年前にみくを病気で失った。

そのみくはこの世界で蝶の様に羽ばたいて生きている事だろう。

苦しみから解放されて、だ。

考えながら俺は暗い中、目の前の仏壇を見る。

朝早くに起きたから.....窓の外は暗い。

雪がしとしと、と降っている様だが。


それを確認しながら俺は目の前のミクの写真立てを見る。

筋萎縮性の病気であったみく。

最後の方は足が動かなくなった。

そして手さえもマイクが持てなくなってしまったのだ。

まるで何処ぞのロックンローラーの様に、だ。


その事があってラストライブの後に引退してからも病は身体を襲い。

顔の筋肉もだんだんと動かなくなってしまい。

2年前に力尽きて亡くなってしまった。

俺はそんなみくの最後の姿がどうしても忘れられない。

みくの推し活をしていた俺は.....みくには幸せになって欲しかったと心から思う。


「みく。お前が居なくなって.....丁度2年経ったな。元気していたら良いけどな」


そんな事を呟きながら俺はゆっくり手を合わせてそのまま立ち上がる。

そして座布団を定位置に戻してから。

そのまま笑顔のみくが写った写真をもう一度、見る。

楽になっているよな?

そんな事を考えながら俺は出発の為に襖を閉めた。



みくの病が発覚したのは有名になってたった1年後の話だった。

俺は筋萎縮性などと聞いて全く意味が分からなくて。

身体が動かなくなると聞いてからのみくの悲しげな顔が忘れられない。


だけど1年後には笑顔しかなかった。

流石は俺の推している女の子だと思った感じだ。

日本中で.....そしてテレビでも有名な女の子だったから。


「.....」


俺はそんなみくを振っている。

有名になってもみくは俺が大好きだった。

何故ならこんな俺だからみくを幸せにする事は出来ないと思ったから。


それに俺はみくを心から好いている訳じゃ無かったから。

応援をしているのは仮にもみくに誰かと一緒に幸せになって欲しかったから、だ。

みくは悲しげな顔を浮かべていたが納得してくれた様に頷いてから.....そのまま俺達は推しと推される関係に戻った。


「ふう」


ほうっと息を吐きながら。

12月の寒い空を見上げてみる。

朝早くだから息が真っ白だ。

それから喫茶店の待ち合わせの場所に向かう。

今日はみくの仲間達からみくの遺したものを受け取りに向かう。


みくの母親と父親に届ける為だ。

そんなみくの母親と父親はみくが亡くなってから筋萎縮性の病と闘っている患者さん達をサポートする活動をしていて忙しい。


その為に俺が受け取るつもりだ。

後で届けるつもりである。

そんな考えのもと喫茶店に入ると。


そこに変装した、鳥山みすず、が居た。

みくのバックに居て今はセンターの彼女。

俺と同級生ぐらいの大学生だ。

結構有名になっているので今はメガネで変装している。

今日だけオフという事で会う事になったのだが。


「今日は来てくれて有難うね。社長さんに頼まれて」


「.....いえ。有難う御座います。今日は呼んでくれて」


「いえいえ。.....それじゃあ早速だけど事務所が今まで預かっていたものを渡すね。みくに言われていたから」


「はい。今までが保管すべき時だったんですよね?」


「そう。君が20になった時に開いてほしいって書かれた手紙だよ」


「え?は?え?」


俺は目を丸くする。

それから鳥山さんに聞く。

それだけですか?、とであるが。

すると鳥山さんは頷きながら、ご両親に宛てたものもあるけど君の分が圧倒的に多いよ、と回答した。

俺は見開きながら当時の事を思い出す。


「それにしても懐かしいね。当時は君は奔走していたよね。推しが勝つなんて言って」


「恥ずかしいですって」


「でもそんな君の必死な姿はきっとみんなの心を変えたよ。君は本当に私達5人組のヒーローだからね」


「.....」


笑みを浮かべる鳥山さん。

俺はその言葉を聞きながら赤くなりながら頬を掻く。

それから、懐かしいな、と思い出す。

最後の最後まで俺はみくの推し活をしていたしな。

思いながら俺はクスッと笑う。


「君が居なかったら色々な複雑な.....色々な嫉妬でバラバラになっていたからね。みくの為に奔走する君の姿が印象だった。本当にね」


「最後にラストライブをやりましょうってなって本当に奔走しましたからね」


「推しをする君の姿は社長も納得だったから」


「そうですね」


俺は当時を思い出しながらまた笑う。

苦笑しながら、だ。

それから鳥山さんを見る。

鳥山さんは少しだけ悲しげな顔を浮かべる。


「懐かしいけどでも悲しいな。まだ2年しか経ってないんだね」


「確かにですね」


「でも納得したなぁ。みくが必死に手紙を書いている理由が。.....こんなの嬉しいに決まっているよ」


「そういえばその手紙って何通あるんですか?」


丁度1日1通で計365通だよ、とすんなり答える鳥山さん。

俺はビックリしながら、え?、と目を丸くする。

そして俺の年齢を思い出す。

来年の1月1日が誕生日なのだが.....まさか。


まさかだが1年分の手紙を書いたって事か?

俺は青ざめながら鳥山さんに、その手紙は事務所に?、と聞く。

すると鳥山さんは頷きながら俺を見てくる。

そして苦笑した。


何で手紙を書いたのだろうって感じだね?

多分みくは察したんだと思う。

自分が死ぬなんじゃないかとか色々とね、と。

それで大好きな推しの人に手紙を書いたんじゃ無いかな、とも。


寂しくならない様に、か.....。

俺は涙が浮かんできた。

そこまで俺の事が好きだったんだな、と考えながら。


そして俺は鳥山さんと一緒に事務所に手紙を取りに行った。

みく。

今更気付かされたけど俺はお前の事は心から推していた。

その反対に心からお前の事が大好きだったんだな、って思ったよ。


馬鹿野郎だなって思う。

だってお前が心から好きだったのにな。

それに気が付かなかった俺自身に腹が立った.....。



それから7年が経過した。

俺は365通の手紙を読み20歳になってから更に時間経って26歳になり。

20の時に婚約し。

そうしてから6歳の娘が居る家庭を持った。


横には俺と同じ様にみくが好きな女性が居る。

何故.....家庭を持ったかというと。

これもみくの願いだった。


だからその願いを叶えてやったのだ。

365通の手紙の内容は。

俺を励ます為の手紙だった。

中身は秘密だ。

俺のものにしたいから。

でも。


365通目だけは教えたいと思う。

何というか365通目だが。

こう書かれていた。


(20の成人おめでとう健次郎。残念ながら私は貴方の成人の姿は多分見れないです。そして私がその場に居る事も叶わないでしょう。365通目。これで最後になります。私が貴方に贈る最後の手紙です。この365通目には最後の願いを書きます。私は健次郎。貴方には婚約して幸せになってほしいです。また愛している人を見つけてほしい。私が推している貴方だから。貴方に推された私だから。だからその推す力のまま幸せになって下さい。私は貴方が幸せになる事を切に願っています)


文章がかなり歪んでいる。

筋萎縮が進んでいる時に書いたものだろう。

そんな365通目で俺は涙が止まらなくなった。

物が言えなくなったからこういう事を書いたのだろうけど。

それから『貴方を推している私』という言葉のもと。


俺は約束通り婚約した。

横で娘を見ている女性は.....今俺が推している女性だ。

俺は本当に幸せ者だと思う。


「好きってやつがまさかここまでになるとはな」


「.....どうしたの?健次郎」


「何でもない。.....大丈夫だ」


俺は苦笑しながら妻を見る。

みく。

お前が今何処かに居るなら。

この気持ちをお前に伝えたい。

有難う、と力強く、だ。


fin

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