第4話
「魔法は、魔力をある程度持っている人なら誰でも使えますよ。何しろ、基本、イメージしながら魔力を込めるだけですから」
魔法で何でもできるわけではなく、適正に応じて使える範囲は決まっている。そして、それらはレベルアップと呼ばれる現象によって変化していくとのこと。
「適正……?」
「同じ魔力を込めても、その人が持つ適正によって異なる現象になるのですよ。例えば、水を飛ばすイメージで攻撃魔法を使っても、火の適性しか持っていなければファイアーボールに、土の適性しか持っていなければストーンバレットにしかならない、といった感じです。私の場合は、適正とは別に癒しの加護を授かっているので、回復魔法が扱えるわけです」
「その適正というのは、どうやったらわかるんですか?」
「だいたい、経験を重ねることで自然とわかるものですが……。そうですねえ。少しやってみますか? 私は村の神官でもありますので、簡単にですが調べることができますよ?」
「?」
悠二が不思議そうな表情を浮かべたことに笑みを返しながら、神官の女性ソラは腰に下げている袋の中から何かを取り出すと、手渡してきた。
「これは?」
手に収まるサイズの女性の像を目にし、首を傾げる。
「アスビャーダ様のことを知らないということは、本当にこの世界の方ではなかったんですね」
渡されたのは小さな女神像。どうやら、女神の名がアスビャーダというらしい。
そして、アスビャーダがこの世界の主神であり、悪神を封じた神なのだそうだ。
「じゃあ、自分をこの世界に転生させたのもアスビャーダ様なんですかね?」
「きっとそうだと思いますよ。では、その像を握り締めて、魔力を込めてみてください」
「魔力を……。それはどうやって?」
「魔法を使うのと同じで、イメージするだけです。自分の体の中に流れるエネルギーを移し込むイメージであれば、やり方は自由なんです。それも適正に関係していますので」
「ふむ」
片手でニギニギと像を握り締め、イメージを構築していく。
像の大きさが野球ボールと同じくらいだったことで、それは自然とピッチャーとしてバッターに対峙する時の感覚に固まっていく。
秘めた闘志と冷静な思考、地面をしっかり踏むしめ全身の神経を研ぎ澄ます。投げる球は風を切り裂きミットに吸い込まれる。
「うわっ!」
イメージトレーニングは欠かしたことがないため、脳内には明確なイメージが構築されていたのだが、突如、握っていた像を中心に変化が起こったのだ。
ボンッと爆発したみたいに水蒸気が噴き出し渦を巻いて像を包み込む。その像自体も木製であったはずが、硬質な石像に変化してしまっているだけでなく、真っ黒に変色してしまっている。
「わあ、スゴイです。水蒸気になっているということは火と水の属性が同時に、それが渦を巻いているので、更に風まで兼ね備えていますね。まあ!? しかも、石像に変化しているということは、土の属性まで。こんなの初めて見ましたよ。それに、そんなに真っ黒になっているということは、魔力量も豊富みたいですね」
この像でわかるのは基礎的な火水風土の四属性と魔力量の鑑定らしく、加護と呼ばれる特殊な才能まではわからない。ソラの癒しの加護も、この方法では知ることができないものだ。大きな教会などであればもう少し詳しく調べることもできるようだが、それでも完璧ではないという。
そもそも、適性を調べるための道具ではなく、魔力だまりと呼ばれるスポットに出現する魔物の種類を調べることで、魔物除けの処置を施しやすくするための道具なのだ。
そのままソラに魔法のレクチャーを受けながら進んで行くと、程なくして森の中に異変を感じ始める。
「魔物に追われて先に動物が逃げ出してるみたいだ。森の奥にいるのはゴブリンよりも数は少ないが、1体1体が強力な魔物になる。我々の目的は殲滅ではなく、森に追い返すことだ。追い返せなくても、隣の森まで誘導することで、村に近寄らせないことを心掛けてくれ」
自警団の団長が改めて今回の目的を口にする。
討伐できればそれに越したことはないが、村人が逃げられる時間を稼ぐことが最重要任務であると。
森にはどれだけの数の魔物が生息しているのかわかっていない。対して、悠二を含めた自警団を主体にした討伐隊の数は迅速さを優先したため30人ほどしかいないのだ。しかも、辺境の田舎村の自警団が主体の討伐隊である。装備も使い古されたものばかりで、中には日頃の農作業や山仕事で使うものを持ち出して来ている者の姿も少なくなかった。
防衛線を維持するには、だいぶ心許ないというのが正直なところだ。
村に続く道を塞ぐように陣取り、弓や魔法が使える者は茂みの陰に潜み時が来るのを静かに待つ。
悠二は、最前線に行こうかと思ったが、防具を身につけていないからと後方で回復の要であるソラを守ることになっていた。
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