第43話

どうしてこんなことになってしまったんだろう。



あたしは神社の敷地内に寝そべって、ぼんやりと木々を見上げていた。



隣りでは弘志君がタバコを吸っている。



さっきから何度も抱かれ、乱暴に扱われ、あたしの体はボロボロだった。



あちこちに擦り傷ができて、土がついて泥まみれ。



こんなことになるなら、弘志君を誘ったりはしなかった。



弘志君は処女の体が面白かったらしく、あたし自身には興味がない。



何度も抱かれれば体だって飽きてくるだろうが、それがいつになるかわからない。



「今度はお前が上になれよ」



一服を終えた弘志君が言う。



「え……」



あたしにとってはどれもが初めての経験だった。



だから弘志君はあたしに様々なことを要求してくる。



「2度も言わせるな!」



弘志君は怒鳴ると同時に拳を握りしめ、あたしの腹部を殴りつけた。



「うっ!」



体を二つに折り曲げて、痛みに耐える。



「お前は俺の女だろう?」



前髪を妻彼、無理やり顔を上げさせられる。



あたしは苦痛でうめき声をあげた。



「スマホに入ってた男の名前も、全部消したからな」



いつの間にあたしのスマホをイジッていたのだろう。



弘志君はあたしのスマホを地面に投げ捨てて言った。



誰かに、助けを呼ばなくちゃ……!



この際誰でもいい。



この地獄から助け出してくれるのなら。



そう思ってスマホへ手を伸ばすが、弘志君がそれを阻んだ。



あたしの体を乱暴に持ち上げ、自分の上に移動させる。



「さっさとしろよ、このドブスが」



弘志君はそう言い、高笑いしたのだった。



☆☆☆


学校へ行っても居場所がないことはわかっていた。



未だに学校のグループメッセージではあたしの悪口が書き込まれている。



それでもあたしは学校へ向かった。



ある、目的をもって……。



あたしが学校に到着したとき、ちょうど放課後のチャイムが聞こえてくる頃だっ


た。



私服姿のあたしは校門前で生徒たちが出てくるのを待った。



部活動や委員会活動のない生徒たちがぞろぞろと校門から流れ出てくる。



それはひとつの大きな川のように見えた。



その中にマリナと貴也の姿を見つけた瞬間、あたしの心臓がドクンッと跳ねた。



復讐という強い感情が胸の奥からせり上がってくるのを感じる。



マリナがクラス内でも良い地位を勝ち取ったのだろう。



当時マリナをイジメていたクラスメートたちからも、挨拶されている。



それを見てあたしは奥歯を噛みしめた。



あたしはマリナのせいで学校にも来られなくなったのに、この差は一体なんなんだ。



全部マリナが仕組んだことだったのに、どうして幸せそうに笑っているんだ。



隣りにいる貴也も心の底から幸せそうな顔をしている。



そんな笑顔、あたしには見せてくれなかったのに……。



あたしはそろりと2人の後を追いかけたのだった。



☆☆☆


2人はこのまま放課後デートを楽しむようで、駅方面へと歩きだした。



生徒たちの姿はまばらになり、途中と遮断機で立ち止まる。



肩を並べてほほ笑んでいる2人の後ろに、あたしはピッタリとくっついていた。



息を殺し、そのタイミングを見計らう。



そっとバッグから取り出したのは万能包丁だ。



黒い柄をしっかりと握りしめる。



狙うのはマリナの背中だけだった。



この際貴也はどうでもいい。



マリナさえこの世から消すことができれば、それでよかった。



この女は悪魔だ。



人を地獄へ追い込んでも笑っていられる、悪魔だ。



7両編成の電車がやってきたとき、あたしは行動に移した。



マリナの真後ろに立ち、包丁の先を押し当てる。



その感覚にマリナが気がつく前に、めいっぱい力を込めて刃先を肉に食い込ませたのだ。



服を貫き、皮膚に到達する感触。



そこからやわらかな肉を切り裂いていく感触。

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