第40話

すべてを知ったあたしは愕然として立ち尽くしていた。



マリナ隣りでずっと話を聞いていた貴也は含み笑いを浮かべている。



「全部知ってたの?」



あたしは貴也へすがりつくようにして聞いた。



「もちろん」



貴也は頷く。



「マリナとの写真を見られて焦ってたのは!?」



「ただの演技だよ」



貴也は悪びれた様子もなく、言いきった。



「嘘でしょ……」



全部が嘘?



あたしはずっとマリナの手のひらの上にいたってこと?



「で、でも弘志とはまだ付き合ってるんだよね?」



「別れたよ。当然でしょう?」



マリナは腕組みをして眉を寄せた。



よほど弘志に悩まされていたようで、その名前を出すだけで雰囲気が変わる。



「弘志ね、処女が好きなんだよ」



マリナはそう言うと、あたしを見つめた。



その視線に背筋がゾクリと寒くなる。



どういう意味で言っているんだろう……。



「じゃ、あたしたちは帰るね」



すべて話し終えたマリナは貴也と手をつないで歩き出す。



「待って!」



咄嗟に手を伸ばすけれど、2人には届かずに体のバランスを崩してこけてしまった。



教室を出る寸前、マリナが振り向いた。



そして笑みを浮かべ……行ってしまったのだった。


☆☆☆


どうやって自宅に戻ってきたのか、よく覚えていなかった。



マリナが言っていたことが信じられなくて、まだ頭の中は混乱している。



けれど、マリナが説明している時貴也もずっと一緒にいた。



そして「嘘だ」とは一言も言わなかったのだ。



きっと、すべてが本当のことだったんだろう。



あたしは知らない間にスマホをきつく握り締めていた。



自分と貴也との思い出も、すべてマリナによって作られたものだったのだ。



今思えば、貴也が突然あたしに声をかけてきたのはやっぱりおかしかったんだ。



最近楽しそうでいいなって思った。



貴也はそんな風に言ったけれど、あの言葉をもっと疑うべきだったんだ。



あの公園での出来事を思い出して胸がギュッと締めつけられる。



この後に及んでもあたしは貴也のことが好きなのだと思い、下唇を噛みしめた。



本当なら貴也にも復讐してやるところだけれど、事実を知らされたあたしの怒りはマリナへ一直線だった。



貴也はマリナを好きになったばかりに、いいように使われているように見えた。



貴也自身もきっとそれは理解している。



それでもいいと思えるくらい、マリナのことが好きなのだろう。



噛みしめ過ぎて、唇から血があふれ出した。



鉄の味が口の中にあふれているが、気にならないくらい強い怒りを感じていた。



あたしはクラスの立場も転落してしまった。



唯一の貴也も失った。



残っているものなんてなにもない。



そう思った時だった。



手の中のスマホが震えて、視線を落とした。



画面を見てヒッと小さく悲鳴を上げる。



それは弘志君からの電話だったのだ。



あの行為の後、マリナへの復讐の続きをするために番号交換をしてしまったのだ。



しかし、今となれば弘志君は恐怖の対象だった。



あのマリナが弘志君と別れるために必死に動き回ったくらいなのだから、あたしがどうこうできる相手ではないのだ。



マリナの話だと、弘志君からの電話は2コールで出なければならないらしい。



すでに6回目のコール音が聞こえてきていた。

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