第38話

☆☆☆


「弘志とのデートでさぁ」



あたしは必死に弘志の良さを美弥にアピールした。



美弥が弘志に興味を持ってくれれば、そして好きになってくれれば、弘志も美弥に興味を持つかもしれない。



なにせ女が大好きなのだ。



今までだって来るもの拒まずだったのだから、きっと美弥も相手にする。



そうすれば、あたしに逃げるチャンスが訪れると思ったのだ。



でも、そう簡単にはいかなかった。



美弥は相変わらず貴也のことが好きなのか、視線で追いかけている。



あたしが弘志の話をすればするほど、美弥の興味は薄れて行っているようにも見えた。



正直焦っていた。



どうすれば美弥が弘志に興味を持ってくれるのかわからなかった。



そんなとき……。



「リアル彼氏?」



スマホに送られてきたオススメゲームのひとつだった。



女性向けの恋愛ゲームはまだ開発途中で、恋愛経験を購入させてほしいという内容が書かれていたのだ。



スマホでやる恋愛ゲームなんて興味はなかったけれど、このときある考えが浮かんだのだ。



貴也と自分の恋愛を売って、美弥にやらせればいいと。



貴也はああ見えて少し腹黒いところがある。



美弥のことを笑っていたことも。1度や2度じゃなかった。



それを利用して、貴也を幻滅させるのだ。



すごく遠回りだし、本当にそんなことができるかどうかもわからなかった。



でも、貴也に連絡を入れるとふたつ返事でOKしてくれた。



貴也はまだあたしのことが好きだからだ。



きっとあたしを取り戻すためなら、なんでもしてくれるだろう。



その後、貴也を主人公とするゲームシナリオが完成した。



「キャラクターの性格を調整させていただきます」



という連絡が来たが、それは断った。



美弥への悪口が削除されたら意味がない。



運営側は渋っていたが、それなら体験を販売しないというと、引き下がった。



そして、ゲームは完成し、サンプルをプレイした。



貴也の悪い部分がしっかりと残されたゲーム。



美弥がこれをプレイすれば、きっと自分のことだと感づくはずだ。



そうなると貴也への興味は薄れるはずだった。



あたしは捨てアドレスを作って美弥にオススメアプリとしてメールを送信した。



リアル彼氏の他にいくつか実在するゲームを添付したけれど、それはどれも美弥がダウンロードしているゲームだった。



これはかけだった。



美弥が本当にゲームをするかどうかもわからなかった。



あたしが弘志を離れられるかどうかも、まだわからない。



でも、確実にその日は近づいていた……。



美弥が自慢げにイケメンにハンカチを拾ってもらったと言ってきたのは翌日のことだった。



その瞬間、あたしは心の中でガッツポーズを作った。



恋愛に飢えている美弥が、これほど簡単に引っ掛かってくれるとは思っていなかった。



あたしはなにも気がつかないふりをして、話しを聞いた。



「貴也。美弥の行動を見張ってほしいの」



美弥がゲームを開始してしばらくしてから、あたしは校舎裏に貴也を呼び出した。



「美弥を?」



貴也は怪訝そうな顔をしている。



「そう。ちゃんとプレイしているかどうか、確認してほしい。キスくらいしてあげてよ」



あたしの言葉に貴也は驚いたように目を丸くしている。



美弥は悲しいくらいあたしの手のひらの上で踊らされている。



1年生の頃からずっとだ。



弘志の手の内に落ちる前に、本当に好きな貴也と夢の時間を見させてあげようと思ったのだ。



「わかった。その変わり、全部うまく行った時は俺とよりを戻してほしい」



貴也の言葉にあたしは笑顔で頷いた。



もちろん、そのくらいのご褒美は必要だと思っていた。



あの弘志を美弥に押し付けることができるなら、お安い御用だ。


☆☆☆


貴也とのデートで舞い上がった美弥は、少しの間ゲームから離れていた。



でも問題はなかった。



このくらいのことは想定内だ。



きっと美弥はまたゲームに戻る。



だって……。



あたしはスマホで美弥のプレイ状況を確認した。



運営に根回しをして、美弥のプレイ状況を把握できるようにしておいたのだ。



ここまで運営が協力してくれるのは、あたしと貴也の経験を無料で提供したからだった。



美弥は今、藍と名付けたキャラクターの性格を不審に感じているはずだ。



自分の体験が反映されていると気がついている頃かもしれない。



こんな中途半端な状態で無視し続けることができるとは思えなかった。



そして、美弥はプレイを再開させ、自分のことが書かれているのだと気がついたのだ。



その間、あたしは学校内でヒドイイジメに遭っていた。



弘志の浮気相手が乗り込んできたのだ。



いや、弘志にとってはあたしの方が浮気相手だったのかもしれない。



どっちでもいいと思えるほど、あたしの気持ちは離れていた。

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