第37話

重たくなりすぎず、だけどちゃんと呼んでくれそうなものを美弥は用意していた。



「見ろよこれ」



その日の内に貴也はあたしに美弥からの手紙を見せてくれた。



当たり障りのない文章からは必死さがにじみ出ていて、思わず噴き出してしまう。



美弥がどれだけ努力したって、報われることはないのに。



あたしは両腕を伸ばして貴也の首にからめた。



そして唇を近づける。



貴也はそれを受け入れ、後ろ手に美弥からもらったカップケーキを捨てたのだった。


☆☆☆


それからは平凡な日常が過ぎていった。



手紙の返事をもらえなかった美弥が、貴也のことをあきらめたからだった。



でも、実際は胸の中で思いを抱えたままなのだということは、美弥を見ればすぐにわかった。



教室内にいても、美弥は自然と貴也のことを目で追いかけているからだ。



「なぁ、次はどこに行く?」



1年生の3学期。



あたしは完全に貴也に飽きてしまっていた。



それよりも、最近は隣のクラスの弘志のことが気になっている。



少し悪ぶっていて幼稚っぽいけど、見た目は貴也に負けていない。



貴也とは結構長く付き合ったし、そろそろいいかなと思っていた。



「別れようよ」



「え?」



貴也はあたしが何を言ったのか理解できなかったみたいで、笑顔をうかべたまま、ハテナマークを頭上にかかげていた。



「あたしたち、別れよう」



あたしは一方的にそう伝えると、貴也を残して教室を出たのだった。



もちろん、貴也は納得しなかった。



どうして、なんでと毎日のようにメッセージがくる。



それも全部無視した。



だって、あたしにとって貴也はすでに過去の人だったからだ。



そして2年生に上がったとき、また貴也と同じクラスになった。



少しうんざりしたけれど、弘志も同じクラスだったから一気に気分は浮き上がって行った。



これで弘志と付き合えるチャンスができたのだ。



そして、もちろんそれもうまく行ったのだけど……。



「俺の電話は2コール以内に出ろよ!」



休日、両親が留守だということで弘志の家に遊びに行った。



その時に言われた言葉だった。



あたしは最初弘志が冗談でそんなことを言っているのだと思い、笑顔を浮かべてい


た。



しかし次の瞬間「笑ってんじゃねぇよ!」と怒鳴られ、頬を叩かれていたのだ。



一瞬なにが起こったのはわからなかった。



目の前は真っ白になるし、痛みで思考回路が止まってしまっていた。



ジワジワと自分が叩かれたのだと理解した。



「お前が悪いんだからな!」



弘志は本気でそう言っているようだった。



弘志が暴力をふるう人間だとは思っていなかった。



それ以上にひどい束縛だ。



あたしのスマホからは男子の名前がすべて消され、休日には1時間に1度写真を送ることが義務付けられた。



そんな弘志に愛想が尽きるのは早かった。



あの日、最初に叩かれた瞬間から、あたしはどうやって弘志を別れるかを考えていた。



そして、最初のチャンスがやってくる。



弘志が他の女子と歩いていたという目撃があったのだ。



あたしはすぐに弘志へ詰め寄った。



もう別れると。



しかし、弘志はそれを許さなかった。



自分はひどい束縛をするくせに、浮気者。



部が悪くなるとすぐに手をあげた。



このときあたしはとんでもない男と付き合ってしまったのだと理解した。



弘志と別れるためには並大抵のことではダメなのだ。



弘志があたしに興味を失うような、なにかが……。

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