第35話 マリナサイド

1年生に上がってすぐ、あたしは美弥と仲良くなった。



風邪をひいたせいで友人を作り損ねた美弥を見て、ちょっと気になったのがキッカケだ。



でも、まさか2年生に上がっても仲良くする関係になるとはこの時のあたしは考えてもいなかった。



どうせすぐに、他の友達ができる。



その程度の気持ちだった。



「今度○○ランドに行くんだ」



そんな声が聞こえてきたのは1人で漫画を読んでいた昼休み中のことだった。



美弥は反長の仕事で職員室に呼ばれていなかった。



やけに楽しそうな声に惹かれて振り向くと、そこには数人の男子たちの姿があっ


た。



その中で背が高く、ひときわ目立っているのは貴也だ。



貴也はモデル顔負けのルックスで、あたしは密かに心を惹かれていた。



その貴也が今週末の予定をみんなに話しているところだった。



「彼女とか?」



友人の1人が茶化すように聞く。



貴也は左右に首を振った。



「残念だけど、家族とだよ」



貴也にはまだ小学生の妹がいるらしいから、きっと妹のリクエストなのだろう。



結構妹思いなところがあるのかな。



このときはそんな風に考えただけだった。



それが……。



「マリナ!」



帰る準備を始めたころ、クラスメートの1人が声をかけてきた。



中学時代からの友人だけどそれほど仲がいいわけじゃない子だ。



「なに?」



首を傾げながら聞くと、彼女はあたしの前に○○ランドのチケットを一枚出してきた。



「これ、よかったらあげる」



「え?」



「友達4人で行くつもりだったんだけど、1人来られなくなったんだよね。チケット1枚だけあってもどうしようもないし。マリナにあげる」



それはただの気まぐれだったのだろう。



1人でレジャーランドになんて行かないから、あたしも誰かに渡すと思っていたのかもしれない。



でもあたしはこの時閃いたんだ。



これって貴也との面識をもっと強めるチャンスなんじゃないの?


と。



高校1年生になってまだ2週間ほどだ。



正直、名前と顔が一致しない生徒たちもまだまだいる。



貴也はあたしのことをちゃんと認識してくれているかわからない状態だったのだ。



でも○○ランドで偶然バッタリ出会うことがあれば、印象的じゃないだろうか。



一瞬のうちにそこまで考えて、あたしは「ありがとう!」と、チケットを受け取ったのだった。



☆☆☆


正直、1人で○○ランドに行くのは少しさみしかった。



あの広い園内で貴也に会えるかどうかもわからなかったし。



それでもあたしは1人で○○ランドへ向かった。



入場ゲートに並び、中へ入ると途端に夢の世界だ。



1人でいることなんて気にならなくなってしまった。



ウキウキとした気分でパーク内を歩き、いくつかのアトラクションにも乗った。



1人で来ているから、誰にも気兼ねなく遊べるのはいいかもしれないと思った時だっ


た。



前方から歩いてくる貴也を見つけたのだ。



あたしはハッと息をのんで咄嗟に近くの物影に隠れた。



顔だけ出して確認すると、貴也の横には小学校5年生くらいの可愛い女の子が歩いている。



きっとあれが妹なんだろう。



まさか本当に貴也と会うことができるなんて思っていなくて、緊張しはじめる。



しかし、正直言ってあたしの男性経験は沢山ある。



小学生のころからよく告白されていたし、貴也くらいのイケメンと付き合ったことも何度もあった。



だから、あたしの緊張はすぐにほどけていった。



偶然を装って近づくことも簡単だ。



貴也と妹さんが近付いてきたタイミングで、あたしは2人に背中を向けて歩き出した。

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