第33話
☆☆☆
翌日、あたしの体はひどくダルかった。
始めての経験があんなものだとは思わなかった。
弘志君は乱暴で、自分勝手に動きまわる。
これが相思相愛の相手なら、また違っていたのかもしれないけれど。
それでも後悔はしていなかった。
マリナはあたしから貴也を奪ったのだ。
あたしはやり返しただけ。
貴也への復讐はこれからだ。
「マリナ、おはよう」
あたしは体をダルさを抑え込み、余裕のある表情を浮かべた。
「なに……?」
マリナは警戒心をむき出しにしてあたしを睨む。
最近のマリナは誰にでもこんな表情をする。
どこにも味方がいないのはこれほど人の顔を変えてしまうものなのだ。
「弘志君の背中って3つホクロが並んでるんだね」
あたしはマリナの耳に口をよせ、囁いた。
その言葉にマリナが息を飲むのがわかった。
身を離してニヤリと笑う。
「美弥……あんた、まさか……」
「あたしをバカにしたからだよ」
「だからって人の彼氏取るわけ!?」
途端にマリナが叫んで立ちあがった。
ガタンッと椅子が後方に倒れて、クラスメートの視線を浴びる。
あたしは驚いてマリナを見つめた。
まさかここまで怒るとは思っていなかった。
「な、なによ。自分だって……」
「あたしはただ、貴也に相談に乗ってもらってただけ! イジメのこと、誰かに言いたかったから!」
マリナは必死で、目に涙を浮かべている。
「でも、写真があったよね?」
「あれは親を安心させるためだよ。元気がないあたしを見て心配してたから、ちゃんと友達がいるよって、伝えるために!」
あ……。
そうだったんだ。
あれは浮気ではなかったのだ。
一瞬自分の体から血の気が引いて行くのを感じた。
自分はなんてことをしてしまったのだろうと。
でも、そんな後悔もすぐに消え去った。
今回のことが勘違いだとしても、1年生の頃の出来事はチャラにはならないのだ。
あたしは気を取り直してほほ笑んだ。
「あっそ。紛らわしいことしないでよね」
あたしは冷たくマリナへ言い放ったのだった。
☆☆☆
マリナの反応のおかげで、貴也への誤解は解けていた。
でもだからって簡単に許すことはできない。
今度は1年生の頃のことを説明してもらないといけなかった。
翌日教室へ向かうと、あたしは最初に貴也の姿を探した。
しかしまだ登校してきていないようだった。
あたしは仕方なく自分の席に座る。
「あの……」
安藤さんがおずおずと話かけてきたので、あたしは笑顔をつくった。
「あ、おはよう」
挨拶をするが、安藤さんはなにか言いたそうにソワソワしている。
「どうしたの?」
「あの、後ろの黒板、ちゃんと見た方がいいよ?」
後ろの黒板?
なんのことだろうかと思い、教室後方へ視線を向ける。
そこには隅っこに小さな文字でなにかが書かれている。
が、ここからでは読み取れない。
仕方なく立ち上がり歩いて行って読むことにした。
「え……」
そこに書かれている文字に、一瞬頭の中が真っ白になった。
《深川美弥はインラン》
白いチョークで確かにそう書かれているのだ。
なにこれ……。
すぐには動くことができなかったが、ドアが開く音がしてようやく体が動いた。
誰がこんなわけのわからないイタズラ書きを!
憤りを感じながら素早く黒板を消す。
さっきの音で教室に入ってきたのは貴也だった。
「あ、貴也!」
あたしは咄嗟に声をかけた。
貴也は一瞬あたしを見て、無言で自分の席へと向かう。
あたしは慌ててその後を追いかけた。
あたしはなにも悪いことはしていないのだ。
堂々としていればいい。
「1年生の時のことで、話しがあるんだけど」
そう言うと、貴也は不適な笑みを浮かべた。
その笑みに一瞬たじろいでしまう。
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