第30話

あたしはあんなにバカにされていたことになるのだ。


「あのさ……」



「なに?」



あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



ほんの少しだけ質問するくらいならいいはずだ。



だって、あたしたちは付き合ってるんだもん。



気になることがあるなら、ちょっとくらいなら……。



「貴也の前の彼女って、誰?」



あたしの質問に貴也の表情が一瞬固まった。



その後瞬きを繰り返し「どうしてそんなこと聞くんだ?」と、聞いてくる。



どこか焦っているような雰囲気を感じ取れた。



「気になったから」



「元カノのことなんて、もう忘れたよ」



そう言って笑って見せるが、笑顔がぎこちない。



あたしに知られてはまずい相手なのだろうか。



だとしたら1人しかいない。



だってあたしは高校に入学してから友人らしい友人は1人しかいなかったのだから。



その人は1年生のころ、あたしの恋を応援してくれていた。



頑張ってデートに誘うことができたのも、1回断られた後、カップケーキをプレゼントできたのも、その子がいたからだった。



あたしはジッと貴也を見つめる。



貴也はあたしから視線をそらせた。



「もしかしてマリナ?」



聞くと同時に貴也の肩がビクリと震えた。



笑顔がスッと消えていき、青ざめていく。



それだけで十分肯定していることになった。



あたしは叫び出したいのをグッと押し込めた。



やっぱり、そうだったんだ……!



マリナと貴也は付き合っていた。



それも、あたしが貴也を好きになる前から。



それなのにマリナはあたしの背中を押していたのだ。



貴也とともに、笑いものにするために!!



すべてのことがわかって拳をきつく握り締めた。



「ご、ごめん、トイレ」



貴也は早口に言って教室を出て行ってしまった。



あたしはその背中を追いかけることができなかった。



悔しくて、悲しくて、やるせなくて。



色々な感情が押し寄せてきて、全然整理できない。



あたしがプレイしていたのは貴也とマリナの記憶……!



ゲームをしている時の幸せな感情を思い出して、また悔しくなった。



あんなゲームで幸せを感じるなんて、あたしはバカだ!



大きく息を吸い込むと、あたしはマリナへ向けて大股歩いた。



さっきの出来事があったせいか、マリナはうつむいて座っている。



「ちょっと、話があるんだけど」



あたしはマリナを睨みつけて、そう言ったのだった。


☆☆☆


「話って何?」



あたしはマリナを空き教室へつれてきていた。



あのまま教室で冷静な会話ができるとも思えなかったからだ。



「今度は誰と付き合うの?」



あたしはまず嫌みをぶつけた。



マリナは一瞬目を見開いてあたしを見つめる。



「さっき弘志君に向かってどなってた、あの男子と付き合うの?」



「何を言ってるのかわからないんだけど?」



マリナは負けじと睨み返してくる。



「貴也と付き合ってたんでしょ」



興奮状態になりそうなのをどうにか押し込めて言った。



ハッと息を飲む音が聞こえてくる。



マリナは口を半分開けて唖然とした表情だ。



「あたしのことを笑ってたんだよね?」



「な、なんのこと?」



「とぼけないでよ!」



あたしは自分のスマホでゲーム画面を表示させた。



それを見た瞬間マリナが青ざめるのがわかった。



やっぱり、図星だ。



「それ、なんで」



マリナの声が情けないくらいに震えている。



いつも自身満々なマリナでも、こんなに動揺することがあるのだと、笑いたくなった。



「この中に貴也とマリナのストーリーがあった。あたしはリナってキャラで、2人の邪魔者みたいになってた!」



一気に怒鳴りつけて、肩で呼吸を繰り返す。



「そ、それは……」



マリナは言い訳を考えているようだけれど、いい言い訳が思いつかないようで黙り込んだ。



「信じられない。そんな人だったなんて……」



貴也もマリナも最低だ。



「あ、あのさ。そんなゲームやめなよ。前言ってた彼氏と別れたなら、あたしがいい人紹介してあげるから」



「そんなのいらない!」



どこまであたしのことをバカにすれば気が済むんだろう。



マリナは本気でそんなことを考えているのだろうか。



「あたし、今貴也と付き合ってるの」



「え……」



「でも、もう別れるけどね」



あたしはそう言い捨てて空き教室を出たのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る