第28話

重たくなりすぎないよう、さりげなく。



マリナに言われたから、そうしたのだ。



あたしはブンブンと左右に首を振って、机に向かった。



新しいノートを開いて、そこにゲームのストーリーを書いていく。



まず、あたしと藍が出会ったのはレジャースポットだ。



あたしがハンカチと落として、藍が拾った。



その後2人は同じ学校だとわかった。



それからデートを重ねて、港公園でキスをした。



それから遊覧船のデートだ。



順調に進んでいた時、不意に貴也が同じクラスのリナという子にデートに誘われたと言ってきた。



体育祭が終わった日だ。



藍とリナは同じ応援団をしていたらしい……。



そこまで書いて、あたしは何度も読み直した。



どんどん血の気が引いて行くのを感じる。



手が震えて、その後のカップケーキのシーンを書くことができなかった。



なにこれ、こんな偶然ってある?



このゲーム内でのリナという人物は、まるであたしそのものなのだ。



あたしが貴也と誰かの邪魔をしているようにしか見えない。



「この恋愛体験は貴也のもの……?」



あたしはスマホに視線をうつして呟く。



そう考えるとすべて辻褄があう。



藍は貴也なのだ。



そしれリナはあたし。



じゃあ、ゲームの中のヒロンは誰……?



そのまで考えてあたしはまた左右に首を振った。



ヒロインが誰だっていい。



だって、貴也はもうその子とは別れているのだから。



そしてあたしの彼氏になったのだから。



自分にそう言い聞かせても、ゲーム内での笑い声が耳から離れない。



貴也はあたしからの誘いや手紙を見て、笑いものにしていたのだ。



勇気を出して書いた手紙をあんな風に……!



恥ずかしさと憤りがこみ上げてくる。



貴也がそんな人だとは思わなかった。



そんな風に人の気持ちを踏みにじる人間だったなんて!



あたしはギュッとスマホを握り締めたのだった。


☆☆☆


翌日、あたしは重たいため息を共に学校に到着した。



今日も貴也は普通に声をかけてくるだろう。



その時、あたしはどう返事をするべきだろうか?



なにも知らないふりをしようか。



でも、そんなことできるのか……。



考えが全くまとまらないまま、教室に到着してしまった。



入口の前で一旦足をとめて、大きくため息を吐き出す。



こんなにため息ばかり吐いていたら、幸せが逃げて行ってしまいそうだ。



どうにか自分の気持ちを奮い立たせてドアに手をかける。



その時、不意に向こう側からドアが開かれた。



突然のことに驚いて後ずさる。



「美弥、おはよう」



ドアを開けたのは貴也だった。



あたしは咄嗟に視線をそらせた。



「お、おはよう」



声も、いつもよりかなり小さくなってしまう。



貴也の笑顔と藍の笑顔がかぶさって見える。

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