第27話

宿題は全然はかどらなくて、あたしはベッドに横になった。



スマホを操作して、数日ぶりにリアル彼氏を起動する。



画面上に表示された藍はなにも変化していないのに、今のあたしにはくすんで見えた。



きっと、本物の恋をしているからだろう。



あたしにはもう、藍は必要ないのだ。



それでも途中投げにするのが嫌で、なんとなくプレイする。



確か藍が他の子にデートに誘われて、それをあたしに笑いながら説明したところからだ。



思い出して、また少し嫌な気分になった。



この藍というキャラクターの性格に少し疑問を感じる。



「大事な体育祭の後のデートは、君とじゃなきゃね」



藍はニコニコと笑顔を浮かべている。



へぇ、体育祭の後に誘われたんだ。



その瞬間、小さな違和感が胸に湧いてきた。



あたしは自分の胸に手を当てる。



なんだかモヤモヤとした気分だけど、その正体がつかめない。



あたしはそのままゲームを続けた。



ゲームの中で、あたしと藍は体育祭の後のデートを楽しんでいる。



そして数日が経過した。



「今度はリナから手紙とカップケーキを貰ったよ」



藍がニヤニヤとした笑みを浮かべて言う。



手には可愛くデコレーションされたカップケーキと、ブルーの封筒に入った手紙が握られている。



「リナのやつ、まだ必死なんだね」



あたしのキャラクターがそう言って笑った。



なにこれ。



恋愛ゲームにこういうのって必要ないよね……?



仮に、デート内容を提供した子がこの経験をしていたとしても、削除して使えばいいだけだ。



「この手紙、一緒に読んでみようぜ」



藍は手紙を広げて読み始める。



《藍へ



体育祭お疲れさまでした!



一緒に応援団ができて楽しかったよ。



調理実習で作ったカップケーキ、食べてください》



その手紙は声に出して読み上げられ、スマホの中から男女の笑い声が聞こえてくる。



あたしは咄嗟にスマホの電源を落としていた。



心臓がドクドクと早鐘を打っている。



なにこれ。



どういうこと?



これが藍の体験したことなんだよね?



グルグルと思考回路が渦巻いている。



だって、今の手紙には見覚えがあった。



それに、体育祭の後にデートに誘われたとも書いてあった。



どれもこれも、自分の実体験に共通しているのだ。



あたしはドクドクとはねる心臓を鎮めるように深呼吸をした。



こんなことよくある体験なんだ。



ただの偶然だ。



自分に言い聞かせながら、日記帳を取り出した。



この前読んだのは体育祭の後からだ。



あたしはゴクリと唾を飲み込んでページを開く。



《今日は調理実習でカップケーキを作った!》



当時の自分が書いた文章に冷や汗が流れるのを感じる。



《1度は振られたけど、諦めないでてマリナに言われたから、もう少し頑張ってみようと思う!



マリナに言われたとおり、重たくなりすぎないような手紙も書いた。



貴也、読んでくれるかな?》



そう、まさにこの時の手紙がさっきゲームで出てきたものと同じなのだ。

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