第26話
一瞬、ズキンッと胸が痛んだ。
ほんの数日前までこんなことにはなっていなかったのに……。
思わずマリナに手を伸ばそうとする。
しかし、それを貴也が遮った。
「今はやめとこう」
「え」
あたしは驚いて貴也を見つめる。
「後から声をかければいいだろ?」
それはそうだけど……。
貴也はあたしが巻きこまれてしまうことを懸念しているのだ。
それは理解できても、止められたことに首を傾げてしまう。
「そんなことよりさ」
貴也は笑顔で話題を変えたのだった。
☆☆☆
昼休憩時間になり、あたしは教室内を見回した。
マリナを探そうと思ったのだけれど、休憩に入ってすぐにどこかへ行ってしまったみたいだ。
あんなことをされているのだから逃げたくなるのも当然か……。
少しでもマリナと話しがしたくてスマホを取り出す。
メッセージを残しておけば、きっと見てくれるはずだ。
「今日も一緒に食べようよ!」
メッセージを作ろうとした時そう声をかけられて顔をあげた。
立っていたのは安藤さんだ。
昨日一緒にお昼を食べたのがよかったのか、すっかりなつかれてしまった。
でも、クラスメートと仲良くするのは別に悪くない。
「うん。マリナにメッセージするから、ちょっと待ってね」
そう言うと安堵さんは顔をしかめた。
「どうして?」
「え?」
質問の意味が理解できなくて、あたしは首をかしげる。
「迷惑してたんじゃないの?」
その質問にあたしは「あぁ……」と、口を閉じてしまった。
確かにマリナの自慢には飽き飽きしていたし、迷惑だと思っていたからだ。
「でもさ、さすがにみんなやりすぎじゃない?」
空気を壊さないよう、明るい口調で言った。
それでも安藤さんは険しい表情をしたままだ。
「あの子、他にも沢山噂があるんだよ?」
「噂?」
「そう。男癖が悪いのはもちろんだけど、美弥ちゃんの悪口も言ってたし」
安藤さんの言葉にあたしは唖然としてしまった。
マリナがあたしの悪口を?
マリナへのメッセージを作るために動かしていた指先が止まる。
でも、マリナならあり得るかも知れない。
あたしは1年生のころからマリナと一緒にいるのだ。
だいたいの性格はわかっているつもりだった。
「……そうなんだ」
「気分を悪くしたならごめんね。でも、あたしは嘘は言ってないよ?」
安藤さんの言葉に頷く。
確かに、そうなんだろう。
「もういいよ。お弁当を食べよう」
あたしは自分の感情を押し殺してそう言ったのだった。
☆☆☆
あたしには本物の彼氏ができて、新しい友達もできた。
彼氏は昔から好きだった人で、ようやく気持ちが通じたのだ。
そして友達も、自分の自慢ばかりをするような子じゃない。
ちゃんとこちらの話も聞いてくれて、一緒にいて気付かれしない子だ。
それに反してマリナは彼氏も友達も失った。
その時期が偶然重なっただけ。
ただそれだけ……。
あたしは自分の部屋で大きくため息を吐きだした。
さっきから宿題をしているのだけれど、どうしても集中できない。
頭からゴミをぶちまけられていたマリナの顔が浮かんできて、消えてくれないのだ。
「マリナのことなんて知らない。あたしには関係ない」
口に出してそう言ってみても、どうしても関係ないと思いきることができない自分がいる。
だからと言って、今の自分にできることなんてなにもなかった。
イジメを止めに入る勇気もないし、代わりにイジメられるなんてもっと嫌だ。
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