第22話

そこで、画面上に選択肢が表示された。



1「デートするの?」



2「断ったんだよね?」



3「好きにすれば?」



う~ん、この選択はなかなか難しいかもしれない。



3は論外だとしても、2も少し傲慢な気がする。



かといって1を選んで「もちろんデートするよ」なんて言われたら目も当てられない。



しばらく悩んでいると左上に選択するまでのカウントダウンが表示された。



一応、30秒以内に選ばなければキャラクターの機嫌を損ねてしまうようになっている。



あたしは悩んだまま、1番を選択してタップした。



すると藍は笑顔を崩さないまま「まさか!」と、笑って見せた。



その反応にひとまず安堵する。



これで正解だったみたいだ。



「あんな子とデートするわけないだろ」



そう言って大きな声で笑う藍。



その態度に不信感が膨らんだ。



なんだろうこれ。



恋愛ゲームってこういうものだっけ?



このゲームは体験談をもとにして制作されている。



だからこういうこともあるのかもしれないけれど……。



なんだか藍のイメージが変わってしまうようなシーンだった。



このままゲームを続ける気分にもなれず、あたしは早々にスマホを閉じた。



「貴也はきっと、藍みたいなことはしないよね」



ベッドの上に寝転がったままで呟いた。



今日の藍との時間は本当に楽しかった。



藍は話し上手で、聞き上手でもあったから、会話に困ることもなかった。



時々沈黙が下りてきても、それすら心地よく感じられたのだ。



少なくても、今日の藍みたいに他の子にデートに誘われたことを笑ったりはしない。



そう思い、あたしは勢いをつけてベッドから降りた。



勉強机に向かい、一番下の引き出しを開ける。



貴也に振られてから奥に閉まったままになっていた日記帳を取り出す。



それは高校に入学した当初書いていたものだった。



貴也に振られたことをキッカケにして、封印してしまったけれど……。



懐かしさに目を細めてページをめくる。



最初の方は新しい学校生活に胸を弾ませる内容が多い。



しかし、途中で風邪をひいて休んでしまってから、友人関係への不安が書かれている。



それを解消してくれたのがマリナだった。



マリナと仲良くなってからは、2人でなにをしたとか、どんな会話をしたか、といった内容が書かれている。



あの頃はマリナの自慢な性格も出ていなくて、本当に楽しい毎日を過ごしていたのだ。



それから少しすると、日記の中に貴也のことが書かれるようになった。



体育の授業でバスケをしている貴也が信じられないほどかっこよかったこと。



貴也にはライバルが多そうなこと。



そして、マリナが仲介役になってくれたことなど。



しかし、結果はダメだったのだ。



この先自分がどうなるか知っているあたしは、一旦日記帳から視線を外した。



そして大きく息を吸い込む。



今日の放課後の時間を思い出し、再び日記帳を読み始めた。



それは1年生の体育祭が終わった後のことだった。



マリナのおかげでちょっとづつ会話をするようになった、あたしと貴也。



「貴也をデートに誘ってみれば?」



体育祭の前日にあたしにそう助言してくれたのは、マリナだった。



「でも、そんなのできないよ……」



異性とデートなんてしたことのないあたしは、自分から相手を誘うなんて考えていないことだった。



「貴也と同じ応援団に入ったのは、なんのためなの?」



マリナにそう聞かれて、黙りこんでしまった。



あたしはマリナに沢山相談をして、貴也と徐々に近づいて行った。



そして体育祭で貴也が応援団に入るとわかったとき、マリナが背中を押してくれたのだ。



応援団はどくとくの仲間意識があるから、急接近のチャンスだよ、と……。



マリナが言っていた通り、応援団は他の種目とは全く違った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る