第21話

あたしが貴也を好きになったのはちょうど1年前のことだった。



1年生の体育徐授業中。



その日は男女が同じ体育館で授業を受けていた。



男子はバスケットで、女子はバドミントンだった。



あたしはマリナと2人でラケットを持って移動しようとした時だった。



突然体育館内に黄色い悲鳴が響き渡ったのだ。



あたしとマリナは何事かと立ち止まり、視線を向けた。



数人の女子たちが固まって男子のバスケを観戦している。



その視線の先を追いかけると、貴也の姿があったのだ。



「バスケうまいよねぇ」



マリナが関心したような声で言う。



確かに、仲間にパスを回しながらコート内を走る貴也はバスケが上手だった。



そしてなによりカッコ良かった。



額に光る汗、真剣な表情、仲間にかける声。



そのどれもにあたしは魅了されてしまった。



「美弥、行くよ?」



「う、うん」



マリナに促されて、あたしはぼーっとしながらその後をついて歩いたのだった。


☆☆☆


「好きなの?」



その日の昼休憩時間。



同じ机でお弁当を広げていたマリナが不意に聞いてきた。



あたしは目をパチクリさせてマリナを見返す。



「好きって、何が?」



「貴也のこと」



続けて言われて、思わずせき込んだ。



「な、なにを言い出すの!?」



ハンカチで口元をぬぐい、あたしはマリナを見る。



マリナはニヤニヤとした笑みを浮かべてあたしを見ている。



まるで、獲物を見つけた肉食獣のような表情だ。



このままじゃ捕らえられてすべてしゃべらされてしまう。



そう思ったあたしは咄嗟に立ちあがろうとした。



しかし、マリナがあたしの手を握り締めてそれを止めた。



あたしはしぶしぶ、浮かしかけた腰を椅子へと戻す。



「いいじゃん。協力してあげるよ?」



「協力なんて、別にいらないし……」



口の中でモゴモゴと反論するあたし。



でも、自分の顔が熱くなっているのを感じる。



きっと真っ赤に染まっていることだろう。



「貴也はライバルが多いよ?」



そう言われてドキリとする。



今日の体育の授業を見る限り、そうなんだろうなと思う。



きっとあたしなんて最初から相手にされない。



「ねぇ、あたしが橋渡しをしてあげるよ。貴也とは時々話すし、その時に美弥のことを話してあげる」



マリナの言葉にあたしは上目遣いになった。



本当だろうか?



「あたしの、なにを話すの?」



「なんでもいいよ? 美弥のこと、どう思う? とか」



そんなにストレートに聞かれたら気持ちがバレてしまう!



あたしは左右に首を振った。



「それとなく、あたしのことを認識してもらうだけでいいよ」



そういうあたしにマリナは詰まらなそうに唇を尖らせた。



「認識って。同じクラスなんだから認識くらいしてるでしょ」



あたしはブンブンとまた左右に首を振った。



「あたしみたいな地味な生徒、覚えられてないかもしれないでしょ!」



あたしの言葉にマリナは呆れ顔だ。



しかし、しぶしぶ頷いてくれたのだった。


☆☆☆


あたしは1年前の、貴也を好きになったときのことを思い出してぼーっとしていた。



振られてしまってからできるだけ忘れようと思っていたけれど、こんなに鮮明に覚えていたなんて……。



なんだか自分が恥ずかしくなってしまう。



ふとスマホに視線を向けるとゲームが起動されていた。



画面上では藍がほほ笑んでいる。



「そういえば、ゲームの日付が違うんだよね」



今さらだけれど、あたしはそう呟いた。



右下に表示されているゲーム内の日付が、今から1年前のものになっているのだ。



変更できないのか試してみたこともあるけれど、どうにもできず、そのままにしてある。



元々機械音痴だから、詳しいことはわからないままプレイしているのだ。



画面上では藍がニコニコとほほ笑み「今日、リナちゃんにデートに誘われたんだ」


と言いだした。



そのセリフにあたしは目を丸くする。



「なにこれ、今まで他の女の影なんてなかったのに」



眉間にマユを寄せて画面を見つめる。



でも、リナちゃんというのは時々ゲーム内に出てきている。



主人公と同じクラスの女の子だ。

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