第18話

その後、何度かマリナにメッセージを送ったけれど帰ってくることはなかった。



マリナがいなくなった後の教室内は一時騒然となっていたけれど、時間がたつにつれてマリナへの蔭口が増えて行った。



本人がいないから、声をひそめる必要もない。



「美弥ちゃん、いつもマリナちゃんの自慢話しを聞かされて大変だったでしょ」



休憩時間中にそんな風に声をかけられたりもした。



あたしは曖昧に笑って頷く。



マリナの立場が大きく変化しつつある。



このまま新しい友達を作ってもいいかもしれない。



これ以上マリナと一緒にいても、自分にとってプラスになることもなさそうだし。



そんな計算をしていた時だった。



「最近楽しそうだね?」



そう声をかけたきたのは貴也だ。



あたしは一瞬返事をすることを忘れてしまった。



貴也は爽やかな笑顔をこちらへ向けている。



「あ、えっと……」



まさか貴也から話しかけてくることがあるなんて思っていなくて、言葉が出てこない。



「なんでそんなに緊張してんの?」



貴也は不思議そうに首をかしげてあたしを見ている。



だってあたしは貴也に振られたじゃん……。



そう言いたいのをグッと押し込めた。



もしかしたらあの時のことは忘れて、友達になれるかもしれない。



そんな淡い期待が胸に膨らんでいく。



そうなると、こんなにボーッとしている暇はなかった。



あたしは慌てて笑顔を見せた。



「楽しそうに見えるかな?」



「見えるよ。いつもニコニコしてる」



それはきっとゲームのおかげだ。



藍とのできごとをマリナに自慢することが、今のあたしの生きがいなのだから。



でももちろん、そんなことは口が裂けても言えない。



「なにか嬉しいことでもあった?」



「べ、別になにもないけど……」



どうしよう、会話が続かない。



それ所か、貴也の顔を正面から見ることもできない。



心臓はドキドキしっぱなしで、今にも口から飛び出してきてしまいそうだ。



「でも、いつも笑顔な美弥って可愛くていいなって思うよ」



ほんのりの頬を染めてそんなことを言う貴也。



え……?



今のは聞き間違いだろうか?



まさかそんな風に言ってもらえるなんて、思ってもみないことだ。



「ごめん、今の俺気持ち悪かった?」



その言葉にあたしは左右に首を振った。



「そ、そんな! 嬉しかったよ……」



どうにかそう言うことができた。



貴也の赤くなった顔を見ていると、こちらまで顔が熱くなってくる。



きっと今、2人して赤面しているのだろう。



「1年生のときはごめんね。俺見る目がなかったんだと思う」



ボソボソと言って頭をかく貴也。



「え、そんな……」



「都合がいいと思うかもしれないけど、よかったら放課後どこか行かない?」



それってデートの誘い!?



ゲームでは何度も経験してきた言葉。



だけど現実に異性からデートに誘われる日が来るなんて、思ってもいなかった。



あたしは口をパクパクさせるばかりで返事ができない。



今すぐにでもOKしたいのに、信じられない。



「美弥?」



貴也が不安そうな表情になる。



これ以上待たせるわけにはいかない。



あたしはスッと息を吸い込んだ。



そして「も、もちろんだよ!」と、大きな声で頷いたのだった。


☆☆☆


あたしが貴也と放課後デート?



その時間が近付いてきても、全く実感がわかなかった。



あたしは本当にこれから貴也とデートをするんだろうか?



肩を並べて歩いて、楽しく会話をするんだろうか?



あたしの乏しい想像力じゃ、全然追いついてくれない。



思い出すのは振られた時のことばかりだ。



でも、こんなにマイナス思考のままた屋かと会うことはできない。



あたしは自分の気分を変えるためにスマホを開いた。



幸い、今やっているのは恋愛ゲームだ。



キャラクターの会話や行動で、選択肢が出てきたりもしている。



男の子が言われて嬉しくなるようなセリフも毎回出てくるのだ。



それを思い出し、恋愛ゲームの攻略がないか調べ始めた。



ゲーム事態はどんなものでもいい。



ただ、男の子が喜びそうな言動を調べておくのだ。

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