第16話

「へぇ、昨日も?」



「もちろん」



「どこに行ったの?」



「どこだったかな……えっと、駅前のスイーツ屋かな」



マリナは空中に視線を向け、考えながら答えた。



嘘をついている人とは、こんなにわかりやすいものなのかと驚いた。



単純にマリナは嘘が下手なのかもしれないけれど。



「何を食べたの?」



「イチゴのクレープ」



「弘志君はなにを食べたの?」



続けて質問をすると、さすがに睨まれた。



「どうしてそんなことを聞くの?」



「さっき言ったじゃん。最近マリナと弘志君の話を聞いてないからだよ。あたしと藍のことばかり聞いても、つまらないでしょ?」



「別に、話したくなったら話すし」



マリナはそう言うと漫画に視線を戻してしまった。



「ちょっと、これを見て」



あたしはマリナの前にスマホをかざした。



そこには昨日目撃した写真が表示されている。



しかしマリナは、あたしと藍のやりとりだと思ったようで「興味ないから」と、そっぽをむいたままだ。



「ちゃんと見てよ」



食い下がってそう言うと、マリナはしぶしぶ顔をあげた。



そして写真を確認した瞬間息を止めたのがわかった。



冷静だった表情が見る見る歪んでいく。



そしてその顔はすぐに真っ赤に染まっていった。



「なによこれ!」



「あたしに怒らないでよ。昨日の放課後偶然見かけたの。マリナにも報告した方がいいかと思って」



弘志君は相変わらず友人たちとの談笑を楽しんでいる。



のんきなものだ。



「放課後デートなんてしてないじゃん」



あたしの言葉にマリナはバンッと両手で机を叩いた。



教室にいた生徒たちの視線がマリナへ集まる。



当然弘志君もこちらを見ているけれど、知らん顔している。



「あんたに関係ないじゃん!」



マリナは怒鳴り声を上げると、大股で教室から出て行ったのだった。


☆☆☆


ちょっと可哀そうなことをしたかな?



マリナは授業が始まっても教室に戻ってこなかった。



チラリと弘志君へ視線を向けても、つまらない授業にあくびばかりしている。



自分の彼女が怒って出て行ったのに、探しに行った気配もない。



さすがにここまでひどいと呆れてしまう。



でもマリナのあの怒りっぷりを思い出すと、つい笑ってしまいそうになる。



あれだけ怒るのだから、マリナは本気で弘志君のことが好きなんだろう。



これから2人がどうなっていくのか見ものだ。



あたしは密かに鼻歌を歌いながら黒板を見つめたのだった。


☆☆☆


「こんなところにいたんだね」



昼休憩になっても戻ってこないマリナを探して、あたしは校舎裏に来ていた。



花壇の端に腰をかけたマリナがあたしを見てため息を吐き出す。



「何の用事?」



そう聞いてくるマリナの表情は険しい。



朝からあんな写真をみせられたのだから当然と言えば当然だ。



「もう帰ったのかと思った」



そう言うとマリナはあたしから視線をそらせた。



あたしは黙ってマリナの隣に座った。



「わざわざ探しに来なくてもいいのに」



ぶっきらぼうなマリナの言葉。



「急にいなくなって戻ってこないんだもん、心配するでしょ」



「どこが心配してんの」



マリナの言葉は冷たい。



あたしたちの関係はどちらが上か下かで成り立っている。

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