第15話
時々ヒヤリとすることはありながらも、ゲーム内容を使っての自慢話しは信用してもらえていた。
ゲームの中の2人は同じ高校と言うこともあって、学校生活の様子も頻繁に出てくる。
「今日はお弁当を作ったの」
と、藍と一緒にお弁当を食べたり。
「放課後どこかへ行かないか?」
と誘われて、放課後デートをしてみたり。
こういうちょっとした日常をプレイしていると、まるで本当に自分が藍の彼女になったような気分になった。
できるなら学校生活のラブラブっぷりもマリナに自慢したかった。
でも、最初に『他校の生徒』だと説明しているので、それはグッと我慢した。
《藍:おやすみ》
ゲームを始めて3週間目。
藍からのおやすみ、おはようメッセージが届くようになっていた。
それは実際に自分のスマホにも届く。
返信をしても返事はないのだけれど、それでもあたしは毎日送られてくるメッセージにおやすみ、おはようと送り返していた。
「それで、藍ってばね」
今日もあたしはゲームの内容をマリナへ話す。
最初は興味津々に話を聞いてきていたマリナだったが、ここ最近はボンヤリと聞き流していることが多い。
あたしの時もそうだった。
最初は友人の恋愛模様が面白くて色々と質問したりしていた。
でも、それが毎日続いて、しかも上から目線になってくるとだんだん聞いているのが面倒くさくなるのだ。
それは十分に理解している。
だからこそ、あたしはマリナを開放しなかった。
自分がなにをやっていたのか、しっかりと理解すればいいんだ。
「藍ってば本当にあたしのことが好きみたいでさぁ」
こうして、ゲームキャラのことを話すのも随分慣れてきた。
しかし、気がかりなことがひとつだけあったのだ。
あれだけ弘志君とのことをあたしに自慢してきていたマリナなのに、最近そういった話を全くしなくなったのだ。
かと言って別れたとも聞いていない。
なにかあったのかもしれない。
「ねぇ、そっちはどうなの?」
ほんの好奇心から訪ねていた。
マリナは一瞬こちらへ視線を向けて、それからすぐにそらせた。
あたしに説明する気はないようで黙り込んでいる。
仕方なくあたしは藍とのデートについて、また話出したのだった。
☆☆☆
マリナの様子がおかしい原因は、その日のうちにわかることになった。
今日も早く帰ってゲームをプレイしようと思っていたのだけれど、母親からのメッセージが届いた。
《お母さん:卵を買ってきてくれない?》
そのメッセージに少し苛立つ。
早く藍との恋愛を進めたいのに、これじゃ時間のロスだ。
できるだけ早く買い物をして帰ろう。
そう思ってスーパーへ向かい、早足で家に向かっていた時だった。
道路の向かい側を知っている人が歩いているのが見えたのだ。
「弘志君……?」
あたしは立ち止まってマジマジとその人の顔を見つめた。
弘志君で間違いないようだ。
弘志君は制服姿で、女子生徒と肩を並べて歩いている。
でもそれはマリナじゃないのだ。
だって、相手の制服は大谷高校の制服じゃないのだから。
2人は仲良さそうに肩を寄せ合って歩いて行く。
まさかこれって浮気!?
ドクンッと心臓が跳ねるのを感じた。
浮気だとすればすごい場面を目撃してしまったことになる。
あたしは咄嗟にスマホを取り出し、2人の姿をズームアップして写真を撮影した。
最近マリナが自慢話をしてこないのは、これが原因かもしれない。
「ふふっ。すごいものを撮影しちゃった」
あたしは自分の気分が高揚していくのを感じたのだった。
☆☆☆
翌日、あたしはスキップしたい気分で学校へ向かった。
教室へ入るとマリナが1人で漫画を読んでいる。
弘志君は窓際の席で友達と会話をしていた。
「マリナおはよう」
「あ、おはよう」
マリナはいつも通り顔を上げて挨拶をする。
その表情が心なしか暗いと感じるのは、あたしの気のせいだろうか?
「マリナ、昨日の放課後なにしてた?」
「昨日の放課後? どうして?」
マリナは突然の質問に聞き返してきた。
「最近弘志君とのイチャイチャ話を聞いてないなぁと思って。放課後デートとか、してないの?」
そう質問すると、マリナのマユがピクリと動いた。
一瞬視線を弘志君へと向ける。
「してるよ」
マリナは背筋を伸ばして言った。
あたしは内心笑う。
さっそく食いついてきてくれた。
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