第12話
翌、月曜日。
あたしは早足で教室へと向かった。
一刻も早くマリナに自慢がしたかったのだ。
「あれ、美弥?」
その声に振り向くと弘志君が立っていた。
「あ、おはよう」
「そんなに慌ててなにかあった?」
弘志君は相変わらずなれなれしく肩を叩いてくる。
弘志君には全く興味のないあたしはしかめっ面をした。
「マリナに話したいことがあって」
言いながら周囲を見回す。
弘志君とマリナは一緒に登校してきているかと思ったが、別々みたいだ。
「マリナに何の用事?」
弘志君には関係ないから。
そう言って突っぱねてしまおうと思ったが、ベタベタとくっついてくるので逃げることもできない。
マリナはこの人のどこを好きになったんだろうかと、不思議に感じてしまう。
「急いでるから」
あたしはどうにか弘志君の腕からすり抜けて、教室へ向かったのだった。
☆☆☆
マリナはあたしが登校してから10分後に教室に入ってきた。
「聞いてよ弘志ってばねぇ」
すぐに自慢話しを始めるマリナに、あたしは咳払いをした。
「それより、こっちも進展があったよ」
そう言うと、マリナは目を丸くした。
「嘘」
「本当だよ。そのために服を買ったんだから」
マリナのことだから、いくら服を新調したってろくなデートはできなかったと考えていたのだろう。
「これ、見て」
あたしは自信満々に藍からのメッセージを見せた。
「うまく行ったの!?」
マリナは穴があくほどあたしのスマホを凝視している。
「もちろん」
あたしは大きく頷いてみせた。
「初めてのデートでキ……キス、されたよ」
本当はキスも未経験なあたしはドキドキしながら言った。
ここで動揺を見せてはいけない。
余裕ぶらないとまたマリナに笑われてしまう。
ただゲームの内容を伝えるだけなのに緊張してしまうなんて、自分の恋愛経験の薄さに我ながら落ち込みそうになる。
マリナはそんなあたしに気がつくこともなく、好奇心いっぱいの表情を浮かべている。
「結局この人、どこの人なの?」
それは当然の疑問だった。
近いうちにまた聞かれるだろうと思っていたことだ。
あたしはスマホをポケットにしまい「他の高校の人だよ」と、答えた。
調子に乗って大学生だとか社会人だとか言えば、すぐにボロが出てしまう。
だから、ゲームの設定通り自分と同じ年ということにしたのだ。
もちろん、同じ高校と言うわけにはいなかいけれど。
「何歳?」
「16。あたしたちと同じだよ」
「それにしては大人びてるよね」
マリナはなにか考え込むように指先を顎に当てる。
その仕草に嘘がバレてしまったのではないかとドキドキした。
「いいね。同年代なのに大人っぽい色気がある男!」
マリナの言葉に一気に緊張がほぐれた。
別にバレていたわけじゃなかったみたいだ。
「次のデートは?」
「えっと、次は……」
答えられず一瞬言葉に詰まってしまった。
ゲームは最初のデートが終わった時点で止まっている。
次をプレイするまで迂闊なことは言えなかった。
「今日あたり、また連絡を取ってみるから、それからかな」
あたしはもっとも無難な返事をしたのだった。
☆☆☆
それにしてもマリナがこんなにアッサリ信じてくれるとは思わなかった。
自分の部屋でゲームをプレイしながら鼻歌を歌う。
マリナはあたしの嘘をすっかり信じ込んでしまっているため、弘志君との自慢話しがおろそかになっているのだ。
自慢を聞かされない分ストレスは軽減されているし、マリナへ自慢話しができるからとても気分がいい。
このゲームを始めて正解だった。
ゲーム上ではあたしと藍が2度目のデートをしているところだった。
場所は遊覧船だ。
1度目のデートの時に行った港公園から、そう離れていない。
十分行ける範囲であるところにもリアリティがあった。
「今日は夜まで大丈夫?」
遊覧船の中で藍が聞いてくる。
「もちろん、大丈夫だよ」
答えるあたし。
まさかこのままホテルに……なんてことにはならないと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます