第11話
さっそくスマホを取り出してゲームのプレイボタンをタップする。
画面上ではデートの約束の当日がやってきていた。
藍のキャラクターとは前回と違う服装になっていて、なかなか凝っているなと感じさせた。
「どこへ行きたい?」
さっそく藍からの質問だ。
1「ショッピングしたい」
2「ご飯を食べたい」
3「港を見に行きたい」
確か、ゲーム上の約束時間は午前10時だ。
だとすれば2番のご飯には少し早い。
となると1番か3番だ。
「ショッピングは楽しいけど、男の子と行くなら港が見える場所かな」
恋愛経験が乏しいあたしでも、女の子と男の子ではショッピングの仕方が違うということは知っていた。
あたしは3番を選んだ。
地元で有名な港公園という場所があるから、きっとそこだろうと推測をした。
「いいね。じゃ、行こうか」
藍は頷き、歩き始めるとすぐに場面が切り替わる。
思っていた通り、それは港公園のことだった。
背景が写真になっているので間違いない。
ここはカップルのデートスポットとして有名な場所でもある。
「今日はすごくいい天気だね」
藍は嬉しそうに空を見上げて言う。
「そうだね。気持ちいいね」
あたしも相槌をうつ。
キャラクターたちは他愛のない会話をしながら港公園を歩いている。
ここなら近くに軽食屋さんもあるし、日曜日という設定なのであちこちに屋台も出ているからお腹が減っても大丈夫だ。
写真を見ているだけなのに、だんだん自分も行きたくなってきてしまった。
といっても、実際に一緒に行く人なんていないんだけど。
そう思ってちょっと悲しくなった時だった。
木陰に入ったとき、不意に藍が立ち止まりこちらをジッと見つめた。
なんだろうと思っていると、選択肢が出てきた。
1「どうしたの?」
2「あたしの顔になにかついてる?」
3「もしかして、トイレ?」
最後の選択肢に思わず笑ってしまった。
これはないな。
そう思い、無難に1番を選んだ。
「どうしたの?」
画面上のあたしが首をかしげて聞いている。
しかし、藍は返事をしない。
どうしたのかと思っていると、急に藍の顔が近付いてきた。
長いまつげの目がスッと閉じられる。
次の瞬間、チュッという効果音が聞こえてきてあたしの体がカッと熱くなった。
今、キスされた!?
ゲーム上のことだとわかっているけれど、リアルな音に心臓が跳ねる。
ゲームの中のあたしはどうすればいいかわからず、ただ棒立ちになっていた。
藍は耳まで真っ赤になり、あたしの手を握り締めて歩き出したのだった。
その後画面は暗転し、デートから戻ってきた場面に切り替わった。
《藍:今日は突然ごめんね。でも、俺は本当に君のことが大好きだから》
そんなメッセージが届き、キャラクターは大喜びするところで第一章は終わったらしかった。
☆☆☆
「ふぅー」
あたしは大きく息を吐きだしてゲームを閉じた。
急展開だったけれど、出会いがベタだった分を挽回できた気分だ。
これくらい刺激的な恋ならきっとマリナも聞き入るに違いない。
問題はどうやって信憑性を持たせるかだけど……。
そう考えた時だった、不意にスマホが震えた。
マリナからだろうかと思ったが、それは藍からのメッセージだった。
《藍:今日は突然ごめんね。でも、俺は本当に君のことが大好きだから》
そのメッセージとともに、ゲーム上で行った港公園の写真が添付されている。
「これだ!」
話しをするよりも、これを見せる方が断然信憑性がある。
ふふっ。
次にマリナに自慢するのが楽しみだなぁ。
あたしはウキウキした気分でスマホを握り締めたのだった。
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