第10話
アニマル柄のトップスやパンツがズラリと並ぶ中、あたしは地味な灰色のワンピースを手に取った。
このお店には相応しくないくらい地味だけれど、あたしにとってはこれが普通だった。
胸元に赤いリボンがあしらわれているし、着てみれば可愛いかもしれない。
値段も手ごろで、安堵する。
これなら買えるし、デートじゃなくても着ることができる。
「ちょっと、そんな地味な服にするの!?」
横からマリナが驚いた声をあげた。
あたしはビクリとして顔を向ける。
マリナは呆れた表情だ。
「リボンがついてて可愛いじゃん」
必死に言うが、マリナは納得してくれない。
「だからダメなんだよ美弥は」
はぁ~と、わざとらしく大きなため息が吐き出された。
その態度にムッとするが、どうにか笑顔を崩さなかった。
「こっちのショートパンツの方が絶対にいいって!」
そう言ってデニムのパンツを自分の体に当てている。
マリナは美人な上にスタイルがいいから、なんでも似合うだろう。
でもあたしは違う。
足なんて細くないし、長くもない。
そんなこと、誰でも見ればわかると思う。
だから、マリナは自分にショートパンツを当てて自慢しているようにしか見えなかった。
「あたしはこれでいいよ」
あたしが選んだワンピースはひざ丈で、太ももはスッポリと隠すことができる。
「いいから、ちょっと試着してみなよ!」
ワンピースを手にレジへ向かおうとしたあたしの手をマリナが掴んで引きとめた。
「ちょっとマリナ!」
文句を言っても離してもらえず、そのまま試着室へと移動していく。
「はいこれ。着たら教えてね」
マリナは強引にショートパンツを手渡すと、さっさと商品棚へと戻って行ってしまった。
声をかける暇もない。
こんなの着ないってば……。
そう思いながらも、あたしは仕方なく試着室へと入ったのだった。
マリナの選んだパンツは本当に短い丈だった。
下手したら下着が見えてしまいそうでヒヤヒヤする。
それでも着てしまうのは、そうしないとマリナが納得しないからだ。
あたしとしては一刻も早く帰りたかったので、ショートパンツに足を通した。
「ど、どうかな……」
一応マリナに見てもらうと、マリナは難しい表情で腕組みをした。
まるでなにかの審査をしているような目つきだ。
居心地が悪くてマリナから視線を逸らせる。
「ごめん。美弥には似合わなかったみたい。あたしが持ってるから、美弥にも似合うと思ったんだけどね? そっちのワンピースでいいと思うよ?」
マリナはそう言うと、あたしが選んでいたワンピースを指差した。
遠まわしに、『あたしには似合うけど、美弥には似合わない』と言われたのだ。
理解した瞬間カッと体が熱くなるのを感じた。
顔まで真っ赤になっているかもしれない。
あたしがこんな服似合わないこと、自分が一番よくわかっていたはずだ。
それなのにマリナに嫌みを言われて傷ついている。
そんな自分が一番嫌だった。
あたしは下唇を噛みしめて、乱暴に試着室のカーテンを閉めたのだった。
☆☆☆
家に戻るとどっと疲れが押し寄せてきた。
マリナと一緒にいるといつもの倍くらいの疲労を感じてしまう。
なら一緒にいなければいいものだけれど、そうもいかない理由があった。
実は入学してすぐの頃風邪で寝込んでしまったあたしは、マリナ以外の友人を作りそびれてしまったのだ。
ほどほどに仲のいい子はいるものの、外に遊びに出かけるほどの関係じゃない。
マリナがいなければ、更に孤独な高校生活を送ることになるのだ。
だからどれだけマリナの言動に腹が立とうが、ある程度の我慢が必要だった。
特別仲のいい友達がいれば、我慢してマリナと付き合う必要もないのにと、大きくため息を吐きだした。
でも今日はまぁまぁ可愛いワンピースと出会えたし、結果はよかったのかもしれない。
自分では普段絶対に行かないようなお店だったし。
袋から取り出したワンピースをクローゼットにしまうと、あたしはベッドにあおむけに寝転んだ。
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