第13話

年齢指定のゲームではないのだし。



きっと夜のイベントが発生するんだろう。



そう思っていると画面は一瞬にして暗転し、夜に切り替わった。



このストーリーの早さも魅力のひとつだ。



「これから花火があるんだよ」



遊覧船の中で藍が言う。



そういえば、とあたしは一度スマホのゲームを閉じて検索画面を出した。



地元の花火大会を検索する。



大きな花火は3か所ほどあるが、遊覧船から見える花火はひとつしかない。



「これのことか……」



あたしも一度は好きな人と一緒に行ってみたいと思っていた花火だ。



藍は地元のデートスポットを抜け目なく行っていたようだ。



実際にどこかにいるであろう藍を思い浮かべてため息を吐き出す。



藍は一体どんな人なんだろう。



こんなデートプランを立てれるくらいだから、きっと女子に人気なんだろうな。



あのアイコンほどのイケメンじゃないにしても、会ってみたいと思い気持がある。



だけどもちろん、キャラクターストーリーを提供してくれた人の情報なんてどこにも出ていない。



藍と会えるのはゲームの中だけなのだ。



そう考えると少しだけ胸たいたんだ。



寂しさを感じて、あたしはすぐにゲームを再開したのだった。


☆☆☆


「で、デートはどこへ行ったの?」



月曜日の朝、教室へ入ると今度はマリナが先に登校してきていた。



あたしは驚いて目を見開く。



マリナがこんなに早く学校へ来ることなんて今までなかった。



「あ、えっと……遊覧船に乗ったよ」



一瞬緊張が走ってうまく言葉が出てこなかった。



「遊覧船かぁ、定番だね」



マリナはガッカリしたように言いながらも、その目はキラキラと輝いている。



もっと話を聞きたいのだとわかった。



「昼間は遊覧船の近くの観光地を見て回って、夜にもう1度乗ったの」



あたしは自分の席にカバンを置きながら言う。



「夜に?」



「そう。花火があったんだよ」



そう言い、自慢するようにマリナへ視線を向ける。



マリナはとうぜんうらやましがるだろうと思っていたけれど、「何言ってるの?」と、眉を寄せた。



「え?」



「花火があるのって夏休みでしょう?」



そう言われ、ハッとした。



そうだった。



ついゲームの内容をそのまま話してしまったが、今の時期はまだ花火はしていない。



遊覧船から見られるのはアジサイ公園のアジサイだ。



「ねぇ、本当にデートだったの?」



マリナはいぶかしげにこちらを見てくる。



背中に冷たい汗が流れていくのを感じた。



まずい。



このままじゃ全部が嘘だったとバレてしまう。



マリナが相手だ。



なんと言って笑われるかわからない。



焦ってうまい言い訳も見つからない。



どうしよう……。



そう思った時だった。



隣りの席の女子生徒が雑誌を取り出したのが見えた。



それは地元のイベント情報が乗った雑誌で、表紙に《城跡のプロジェクションマッピング!》と書かれている。



咄嗟に口が開いていた。



「プ、プロジェクションマッピングだよ!」



「プロジェクションマッピング」



まだ眉を寄せているマリナが聞く。



あたしは何度も頷いた。



「そ、そうだよ! 映像だったの!」



苦しい嘘だった。



マリナはまだいぶかしげな表情を浮かべている。



本物の花火だろうが、プロジェクションマッピングだろうが、もっと集客が見込まれる大型連休などでやるならまだわかる。



今は梅雨入り前の6月。



微妙な時期だった。

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