第8話

☆☆☆


ゲームの中。



あたしはあのレジャースポットにいた。



前回、ハンカチを拾ってもらったところから開始されているのだと、すぐにわかった。



前回と違うところは、画面の下には会話の内容の選択肢が表示されているところだった。



1「それじゃ、さようなら」



2「あの、よければ連絡先を交換してくれませんか?」



3「これからどこかへ行きませんか?」



3つの選択肢にあたしは瞬きをした。



メッセージ上ではすでにフォローされているが、ゲーム上ではまだそこまで進んでいないのだ。



1はもちろん論外だ。



ゲームを進めるためには2か3しかない。



いきなり3を選ぶのはちょっと積極的過ぎるかな?



そう思い、あたしは2番のセリフをタップした。



「あの、よければ連絡先を交換してくれませんか?」



覚悟を決めたあたしの言葉に、藍は笑顔で頷く。



「もちろん」



そう言って2人がメッセージを交換した。



問題はこの次だった。



あたしはゴクリと唾を飲み込んで画面を見つめる。



レジャースポットから帰宅後、また選択肢が出てきた。



1「今日のお礼を伝える」



2「なにもしない」



これは簡単な選択肢だ。



もちろん1をタップする。



《美弥:今日はハンカチを拾ってもらってありがとうございます》



少し丁寧すぎる文章が表示されたが、これは変更がきかないらしい。



《藍:どうってことないですよ。てか、タメ口でいいよ? 1年C組の子だよね?》



その返信にあたしは目を丸くした。



これは同じ学校の生徒という設定になっているみたいだ。



それなら確かに敬語はおかしい。



《美弥:そうだよ!》



2人とも知り合いという関係ならばその後の展開だって早そうだ。



他人の恋愛だというのに、自分の心臓がドキドキしてくるのを感じる。



その時、また選択肢が表示された。



1「このままメッセージを終わる」



2「メッセージを続ける」



もちろん、2番だ。



とにかく早くストーリーを先へ進めたくて、あたしは2番をタップする。



マリナが羨ましいと感じる展開まで進めるには、どのくらい時間がかかるだろうか。



《美弥:藍君って呼んでもいい?》



《藍:呼び捨てでいいよ》



悪くない展開だった。



しばらく他愛のないやりとりを続けた後、藍から決定的なメッセージが送られてきた。



《藍:今度一緒にどこかへ行かない?》



藍からの誘いに思わずガッツポーズを取る。



やっぱり、メッセージをすぐにやめなくて正解だったのだ。



あたしは鼻歌気分でゲームを進める。



それにしてもこのゲーム、ちょっと簡単すぎない?



セリフの選択肢が時々出てくる以外は、ほとんど勝手にストーリーが進んでいく。



よほどのヘマをしないかぎりバッドエンドはなさそうだ。



「そっちの方が助かるけどねぇ」



正直ゲームの内容を楽しんでいるわけじゃないあたしからすれば、ちょうどよかった。



どんどんゲームを進めて行って、その出来事をマリナに自慢してやるのだ。



画面上の2人はデートの約束を取り付けたところだ。



今はここまでしておこうかなと考えたその時だった。



スマホが震えてメッセージが届いたことを知らせた。



「藍からのメッセージだ!」



そこにはゲーム上で交わした約束が表示されていた。



《藍:じゃ、今度の日曜日。10時に公園で待ってるから》



プレイヤーにリアルな恋愛体験をさせるための演出だ。



そう理解していても、メッセージを見ると自然と頬が緩んでいくのを感じる。



やった!



このメッセージを見せればマリナだってあたしの言うことを信用するしかなくなる!



あたしと藍のベタベタな出会いを聞いて、マリナはどこか疑っていた様子だったのだ。



ただ、藍のアイコンがカッコ良かったから食いついてきたけれど、あたしの話をうのみにしているわけじゃなさそうだった。



でも、これがあれば話しは別だ。



マリナだって、信じざるを得なくなるだろう。



あたしは鼻歌交じりに教室へと戻ったのだった。

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