第6話
ゲームの中であたしは地元の有名なレジャーランドに立っていた。
足元を見ると白いスニーカーを履いている。
もちろん、現実のあたしはこんなスニーカーは持っていない。
このゲームは恋愛ゲームのはずなのに、可愛いミュールとかじゃないんだ?
そう思いながら空を見上げると、よく晴れていて太陽がまぶしいくらいだ。
デートには持ってこいの日よりみたいだけれど、どこをどう見まわしてみても相手の男の子はいない。
もしかして、まだ出会ってないところからプレイ開始なのかな?
首をかしげつつ前方へ視線を向けると、地面に赤い矢印が表示されているのが見えた。
どうやら、この矢印に沿って移動するみたいだ。
どこへ向かうのかなんの説明もないままだが、とにかくあたしは歩き出してみた。
数歩歩いたその時、鞄の中のスマホが震えた。
歩きながら取り出して確認する。
もしかして彼氏になるキャラクターからのメッセージだろうかと期待したが、なんでもない広告メールだ。
それにざっと目を通し、また歩き出す。
どこにいけばキャラクターに会えるんだろう?
そう思って首を傾げた時だった。
「あの」
後ろから男性の声が聞こえてきて、驚いて振り向いた。
そこに立っていたのは青い髪をした青年で、手には白いハンカチが握られている。
ドクンッと心臓が高鳴るのがわかった!
あたしが選んだ男の子だ!
そして、男の子が持っているハンカチが、自分のものであることがわかった。
「あっ」
と小さく口にして、カバンの中を確認する。
確かにここへ入れておいたはずのハンカチがない。
さっきスマホを取り出したときに落としたみたいだ。
青年がほほ笑んでハンガチを差し出してくる。
☆☆☆
「なるほど、これが出会い方かぁ」
ベッドの上、スマホ画面を見つめてあたしは呟いた。
今ゲーム内であたしと青い髪の青年が出会ったところだった。
シチュエーションは地元のレジャーランド。
あたしも、子供の頃何度もつれて行ってもらったことのある場所だ。
デートスポットとしてもよく利用されている。
そこであたしはハンカチを落として、青年が拾ってくれたのだ。
「う~ん」
あたしはスマホ画面を見つめて首をかしげる。
今の出会い方は嫌ではないけれど、ちょっとベタすぎる気がする。
これ、本当に誰かが経験した恋愛なの?
疑問を抱いて苦笑いを浮かべる。
本物の恋愛体験だとうたっているだけかもしれないが、まいっかと考えなおす。
とにかくこれであたしと青年は出会ったのだ。
明日学校でマリナに『とびきりのイケメンと会った!』と言うことができる。
ゲーム上でもまだ付き合う段階までは言っていないのだから、これくらいの嘘は別にいいだろう。
ゲーム内容があまりにベタなら、それ以降は『なんの進展もなかった』と、言っておけばいいだけだ。
とにかく、今のあたしにはマリナにやり返すチャンスが来たことで頭がいっぱいになっていた。
マリナはどんな反応を示すかな?
想像するだけでワクワクする。
普段から『彼氏を作ればいいのに』と上から目線で言ってくるマリナ。
思い出すだけで胸の奥が重たく、暗くなってしまう。
あたしはぶんぶんと左右に首を振って勢いよくベッドから起き上がった。
その時、一階から「ご飯ができたわよ!」と、お母さんの声が聞こえてきた。
あたしは慌ててベッドにスマホを投げ出して、部屋を出たのだった。
☆☆☆
翌日の学校。
マリナは相変わらず弘志君とのラブラブっぷりをあたしに話して聞かせてくる。
その度に弘志君って女ったらしだよねぇ? と、言いたくて仕方なかった。
それをグッと我慢して、マリナへ微笑みかけるあたし。
なんたって今日のあたしはいつもより余裕があるのだ。
あれだけのイケメンに出会ったのだから、当然のことだった。
ゲームの中だけど。
「そう言えば昨日、○○ランドに行ったんだよね」
思い出したようにあたしは言う。
もちろん、ゲーム内で行ったレジャースポットのことだ。
「え、○○ランド?」
この辺では有名な場所のため、マリナは目を輝かせる。
でも、すぐに怪訝な顔に変わった。
「放課後に行ったの?」
「う、うん。そうだよ」
「それじゃほとんど遊べなかったんじゃない?」
マリナは首を傾げている。
確かに、放課後から○○ランドに行ったらすぐに日が暮れて遊べなくなってしまう。
そこまで考えていなくて、冷汗が出た。
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