第2話
さっそく好奇心旺盛な男子たちがマリナのことを噂し始めているようで、時々どこからか「めっちゃ可愛い」とか「美人」などと言った声が聞こえてきた。
マリナにも聞こえているはずだけれど、本人は全く興味がないようで、熱心に自分の中学校のことを話している。
マリナが気にしていないのだからいっか……。
あたしはそう思い直して、マリナの話に耳を傾けた。
せっかく新しくできた友達なのだ。
どんな相手でも仲良くしたかった。
自分とマリナはもともと別の人種であったとしても、ちょっとした拍子に同じ世界で交わることもある。
そう考えることにした。
思っていた通り、マリナはとても気さくな性格をしていて、付き合えば付き合うほど一緒にいてもいいのかなと思えるようになっていた。
そして、2年生に上がってからもまた、同じクラスになれたのだ。
「弘志君と相変わらず仲よしだねぇ」
あたしはマリナの言葉に頷きつつ答えた。
さっきもさして変わらないことを言った気がするけれど、マリナは相槌を打ったことで満足してくれている。
ずっと一緒にいたからわかったことがひとつある。
マリナは彼氏のことを自慢したがるタイプだ。
それも、ちょっとやそっとじゃない。
少しデートしただけで、それを延々と繰り返し聞かされるのだ。
あたしはマシンガンのように話を途切れさせないマリナに関心してしまう。
よく同じ話ばかりできるな……。
そして話の閉めとして必ずこう言うのだ。
「美弥も早く彼氏作りなよぉ」
そんなの、できてたらとっくに作ってるよ。
と、いつも思う。
そのセリフを言う時のマリナはいつも自身満々な表情で、どこかこちらを見下しているようにも見えた。
あたしの被害妄想かもしれないが、それが一番嫌な瞬間だったのだ。
1年生のころ、最初に出会ったあの時のことはまだ覚えているけれど、その記憶はどんどんセピア色にくすんでいく。
互いに1人で心細くて一緒に歩いた廊下も、今じゃ普通に1人で歩けるようになってしまった。
クラスメートたちとも打ち解けて、マリナが風邪で休んだりしても他に会話をしくれる子はいる。
そう思うのはきっとあたしの身勝手さのせいだと思う。
だけど、マリナとの会話にほとほと疲れていることは事実だった。
「マリナがあんな感じだとは思ってなかったなぁ」
今日もどうにかマリナのノロケ話から解放されたあたしは、1人になりたくて廊下へ逃げだし、思わず呟いた。
廊下の窓が開いていて、涼しい風が入ってくる。
マリナのノロケ話が始まったのは2年生に上がって弘志君と付き合い始めてからだった。
中学時代にも付き合っていた人はいたようだけれど、その話はほとんどしない。
終わってしまった恋を振り返るようなことはしないのかもしれない。
心地いい風が入ってきてあたしは大きく深呼吸をした。
本当に、自分にとってマリナとの会話がストレスになっていたのだと気がついて、苦笑を洩らした。
1年生のころはマリナがいてくれて助かったと感じていたのに、自分の都合のよさにあきれてしまう。
教室へ振りかえってみると、マリナは漫画を取り出して読み始めている。
マリナは近寄りがたい美少女のためか、あたし以外にあまり友人がいなかった。
時々他の子と会話をしているのを見かけるけれど、マリナの態度はどこかぎこちない。
その上派手系の女子たちには目をつけられやすかった。
マリナからすれば、あたしには一緒にいてほしいはずだ。
それなら、いつでも漫画を読んでいるときくらい大人しければいいのにね。
なんてね。
あたしは心の中でそう考え、苦笑いしたのだった。
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