エピソードⅡ モールテロ編
第28話 思いが交わす二人
昼休み、遼介は屋上庭園にいた。いつも座っているベンチに横たわり、雲の流れを眺めながら、手に持っている草笛を吹いている。
「休み時間でも、ずっとこんなふうに1人で過ごしてるの、寂しいわね」
吹いていた曲を止め、振り返るよ、そこにはヒトミがいた。
「おう、やっと来たか」
「あんた、約束忘れたの?」
「別に、お前は、来てるじゃん?」
「またそれ。うちのクラスに顔出してくれたらいいのに」
「勘違いされるのを避けるためにな。お前、校内で有名人だろう?」
ヒトミは近くにやってきて、問い掛ける。
「隣、座って良いかな?」
遼介は起き上がって言った。
「どうぞ」
ヒトミは遼介の隣に腰掛けた。
「先の草笛、聴いてて心が癒されるわね。なんて曲?たしかそれ、海辺で吹いてたのと同じメロディーとね?」
その曲は遼介が赤ん坊の頃から、ずっと覚えているメロディーだった。この曲を聴くと、自分の心も落ち着くのだ。
「この曲はオリジナルで、曲名は俺も知らない、今まで同じメロディーの曲が外の社会に聴いたことないが、子供の頃からこのメロディをよく覚えている」
ヒトミは淡い笑みを浮かべて、興味深そうに云った。
「ふん〜ん、そうなんだ。あんたはそのメロディを大切に扱っているよね?」
「何でそう思う?」
「だって、その曲を吹いている時が一番リラックスしているように見えるから」
遼介は自分でもそう思う、頷きながら言った。
「確かにこのメロディは吹く時に気持ちがよく一番落ち着くな」
ヒトミの約束を思い出し、話題を変えた。
「そうね。あんたのことをうちのクラスメイトに訊ねると、校内でのあんたの印象とか評価がこれでもかってくらいに悪いのよ。ひどいもんね。不良の鏡とか、孤高な暴君とか、教師の大敵とか、どれもひどい評価だわ」
「それがどうした?」
「あんたはどうして近つけ難いオーラを放って、意図的に人を遠ざかるの?人付き合いがそんなに苦手なの?」
「これがレッドオーダーの役人としての俺にとって一番いい対応だろ」
「それってツンテレ?クールぶりたいけど照れてるだけ?」
「違う。俺の身の回りの人を危険に巻き込む可能性がある。不要な犠牲を払いたくない。だから出来る限り人と距離をとって、それで嫌われても構わないってこと。そしたら奴らの安全を守れるだろ?」
「その理由は理解できるけど、それじゃああんたやっぱりフールだね」
「なにがおかしい?」
「矛盾してるからよ。あんたは社会の正義を守るヒーローになりたいでしょう?ずっとポーカーフェイスで人々から離れてなんて。人は、謎だらけで強い力を持つ人に不信や疑念や恐怖の思いを感じるものだからよ」
「それくらい分かる。お前も知っているだろ?一般人はウィルターに偏見を持つんだよ」
「知っているよ。ウィルターは『ガフ』の付き合い方は人それぞれ、下手にすると差別される。それはウィルター同士の間でも同じだわ」
「お前はアース界の一般人の劣等性を知らない。偏見モンスターに何を言っても話は通じないんだよ。そんな人たちを含めて守るためには、せめて余計な衝突を最小限に抑えべきだろ」
「あんたは負の人間関係を保って、一人で社会の正義を守る、そんなことしてて幸せ?いつもまで続けるつもりなの?」
「俺はその覚悟の上でやってきた。お前はただの警護人なのに余計なお世話だろ?」
「それもそうかもね。でも、任務実行するために必要な聞き取りよ」
こんなところで二人、ヒトミがつくった親しいに話をする。周りを見渡すと、恋人同士が仲良く昼休みの時間を楽しんでいる。
本当は、ヒトミは遼介の事をもっと知りたい。心の壁をぶち倒すために、からかうような質問をして、遼介の心の防御を解こうとする。遼介は右手で自分の首を揉むと、ため息をつきながら、恥ずかしそうに文句した。
「ったく、聞き取りの内容にもほどがあるだろう」
「あら、確実な任務レポートを書いて欲しいってあんたの要求でしょう?あんたの人間性の部分を知らないと、真実を書けないわよ」
「仕方がないな、お前、ちゃんと書くよな?」
「もちろん!ちゃんといいレポートを書いてあげるわよ〜!」
眩しい笑顔を見せるヒトミであった。
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