第26話 メア・ギーア武装

 ここがどこなのか見当もつかない。唯一わかるのは事務所であると言う事。


 男が、投影された映像を見ている。身長は185センチほどで、軍人のような筋骨隆々の体格をしている。ブロンズのショートヘアで、サイドバックを高くまで刈り上げている。


 黒と緑の迷彩柄のタイトなボディスーツを着ている。その顔からは、何の表情も読め取れない。男の名はボブ・ランディス。


 映像の中に映るのは白衣を着た男。見た目は30代後半、ベリーショートの巻き毛、茶色のレーザーゴーグルを掛けている。男はデスクに内蔵するプロジェクターから投影された映像を見ながら話をしている。


 「ランディス、新製品の売れ行きはどうだ?」

 「ボンドス博士が作った六つの『メア・ギーア』武装は完売です。量産型の売り上げも好調です」

 「いいニュースだ」


 ボンドス博士は沈着な薄笑いを浮かべて、セクシーな低い声で云った。


 「博士の武装が優れている証拠です。わざわざ販促なんかしなくても、商品自体が魅了的ですから」

 「販売屋担当の君に気に入ってもらえて、僕も嬉しいよ」

 「その証拠に、ヒイズル州ではこれからあちこちで事件の種が開花するでしょうね」

 「それもプロジェクトの一部だ。売り出した『メア・ギーア』は面白いデータを集める。お前の力を引き上げる為、お前の素質に合った、特別なギーア武装を作った。またいつものように送る。必ず君の力になる事を保証する」

 「万謝でございます」

 「我ら公爵の拠点建設の資金を集める為には君の役割が重大だ。忘れないようにな」

 「承知しました、ボンドス博士」


 通信が切られた。


 パチ、パチ、パチ…


 静かな事務所に拍手の音が響く。こだまする音が耳障りだ。ランディスは表情を変えず、そちらを振り返る。


「なんだ?鹿谷」


 小柄で顔は痩せ気味の30代の男だ。彼はデスクの上に座り、陰気な笑みを浮かべて云つた。


「あんたが羨ましいよ。ただ例のモノを売るだけで博士に褒められるて」

「つまらない仕事だ。顧客との付き合いも面倒だ」

「ハッハ!確かにガフとビジネスなんて反吐が出るけど、命の保証はされてるだろ。こっちの仕事よりもよっぽど容易いじゃないか、ボブさん」

「メア・ギーアの性能を試したらすぐに尻尾を振る、チョロい奴ばっかりだ」

「次の行動はお前も参加するか?」

「悪い、また今度だ。その日はバイヤーにギーアを仕出す予定があるんだ」


  それを聞いて、鹿谷の目付きは機嫌が悪そうに変り、こう訊ねる。


「ふん。あんたはその仕事に就いてれば博士のお手製の武装が貰える。あまりに

不公平じゃあないか?こっちは命賭けて働いてるんだぜ」

「そんなに欲しいなら譲ってやってもいい。俺にはそんな余計な物、必要ない」

「そんなこと言っていいのか?博士の前じゃ禁句だぜ」

「博士の才能は否定しない。が、俺が信じているのは自分の力だけだ」


 鹿谷とお関わり合いになりたくないランティスが事務所の出入り口へ向かうと、扉が自動に開いた。


「おい、ランディス、武装を売って稼いだ金を俺に少し回せよ?」

「知ったことか。博士に言ってくれよ」

「はぁ、全く。本当に融通のきかない石頭だな!」


 ランディスは言葉を返さず去って行った。


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