第24話 侵攻、突破、救助 ②
その一方、スミレ達が地下施設で列をなれていた。スミレは先頭のアンズを追い抜き、叫んだ。
「待ってください!先に私に注射してください」
「あん?」
若衆が互いに見合う。
「グヘヘ!!」
「いいだろう、来いよ!若いのに大胆だな!気に入ったぜ!直々に可愛がりたいぐらいだ」
「馬鹿、お前は何を言てんだ!女の処遇を決めるのはタクヤ様だろ!」
アンズが怒鳴る。
「ちょっと、あの子じゃなくて、私が先のはずでしょ?」
「うるせえ!黙って待ってろ。このお嬢ちゃんが終わったら、次はお前だ!」
男達はスミレを診察台に座らせ、逃げられないようにスミレの様子を注視している。スミレは逃げるチャンスを失った。両手を縛っていた縄は解かれたが、その代わりに椅子の肘掛けについたベルトで固定されている。逃げられない。得体の知れない薬を注射される。恐怖に支配され、スミレの体が震えている。どうすればいいのか分からない。机の上には三丁の注射ガンが置かれている。白衣の男が次の分の、怪しげな青い液体を充填している。
その時、強い衝撃が起こった。診断室の外から大きな爆発音が聞こえる。
「地震か?」
「一体何の騒ぎだ!」
診断室全体がざわめく。次の瞬間、診断室の壁に大きな風穴が空いた。
煙の中から光弾が飛び出し、白衣の男を倒した。遼介が近づいてくる。
「てめぇ、誰だ?」
拘束されているスミレ、怯えている女達、怪しげな注射ガン…一目で何が行われているかを察知した遼介は、怒りをあらわにした。
「薬で女を支配する奴はゴミだ!」
男達は一斉にリングでハンドガンを生成し、遼介を撃った。遼介が左手を振ると、そこから起こった気流だけで四人の若衆を吹き飛ばし、壁にたたき込んだ。思いも寄らない助けが来た。スミレは安堵するとともに、涙を見にためながら叫んだ。
「光野君!?」
「ウィルターか?化け物め!死ね!」
隆二はエネルギーグレネードランチャーだ、圧縮されたエネルギー弾が発射され。遼介はそれを生身で受け止めた。エネルギー爆発を受けても無傷の遼介はが隆二に歩み寄る。
「何!?」
「お前、くたばれ!」
遼介は隆二の襟を掴み、片手で投げ飛ばした。
「ぐわあぁっ!!!」
隆二は医療器具の保存棚に突っ込んでいった。様々な器材が床に落ち、麻薬の瓶も割れた。すでに中毒になっている女達が、地に這うように麻薬を貪る。混乱や焦燥に支配され、パニックで泣きわめく者もいた。遼介は診察台までやってきて、近くにあったメスでスミレを拘束していたベルトを切った。スミレは目に涙を滲ませながら遼介を見つめた。
「ありがとう、光野君……」
「感謝なら、三井さんに言ってくれよ」
「そっか…ゆっちゃんが光野君に連絡したのね?」
「…ったく。自分の力量もわからずに、一人で探偵ごっこなんかすんなよ。このアンポンタン」
恥ずかしさに顔を赤くしながらも、スミレの胸中は遼介の感謝でいっぱいだった。
「どうして光野君は私がここに居るってわかったの?」
遼介は、嘘にならない範囲の曖昧な答えを言った。
「いろんな情報を駆使して、な」
実際には、遼介は警察に要請し、女性が失踪した時刻に上空にいたマシン全ての記録を集めさせ、飛行ルートを重点的に捜索していた。女性たちを攫ったマシンは全て郊外の田園地帯に停まり追跡を免れていたが、遼介は近くの村で複数の源グラムの気配があるに気づく。近くに寄るとその中にスミレの気配があることからこと、この屋敷に辿りついた。
アンズは遼介の速やかな戦い方で若衆を一気に倒したを見た。彼の言動とルックスも可愛いと思った彼女は声を掛ける。
「あら、彼氏が助けにきたの?」
スミレは顔を真っ赤に染め、慌てて両手を振って否認した。
「えっ?ち、違います!彼はただの同級生で……」
妙に愉しい笑みを浮かべるアンズがさらに言った。
「本当?頼もしい子じゃないの」
「アンズさん、からかわないでくださいよ!」
二人の会話を横切る遼介は顔をアンズに向かって訊ねる。
「あんたは本多さんと一緒に拐われたホステスだな?」
「アンズよ」
二位の容態が無事のを確認すると、遼介は言う。
「二人に頼みたいことがある」
「何?光野君」
「まず、囚われた人を広場に集める事」
スミレは訊ねる。
「どうして?」
「この地下シェルター施設の出口は一つしかない。奴らの仲間がまだ出てくるだろう。仮に全員を脱出させても、外が安全だって保証ない。警察が来るまでは皆で集まっているのが賢明だろう。捕まってる人達は全員無事か?」
「全部で何人いるかは分からないけど、みんなは別々の部屋に閉じこめられてる。まだまだ他にもいると思うの」
「そうか。警察が把握してる数より多そうだ」
「ちょっと、光野くんだっけ、アドバイスがあるけど、ここの人は半分以上薬を打たれてる。正気を失った連中をひとつの場所にまとめるのは現実的じゃないわ。警察が来るまで、閉じこめられた人達はそのままにしててもいいんじゃない?」
遼介は回りの状況を見て、少し考えると言う。
「じゃ、二人はここで隠れてて」
スミレは戸惑う。
「でも……」
アンズは隆二が落としたエネルギーグレネードランチャーを拾っだ。
「大丈夫、彼女は私に任せて。命の恩人だもの。何としても守るわ!」
アンズは武装のシステムを確認しようと、グレネードランチャーはライフルモードに変形させた。
「使い方わかるんですか?アンズさん」
手慣れた様子でライフルを肩に掛け、アンズが言った。
「武器って大事よね!こう見えて高校じゃサバゲー部でね、州大会でM V Pも獲ってるのよ!」
その話を聞いた遼介は彼女の力が期待できるよに頼んだ。
「頼ってもよさそうだな。じゃあ本多さん、彼女と協力して、このエリアに防衛線を展開してくれ。俺は本丸を叩きてくる」
遼介は踵を返し、診断室から去った。本心では遼介についていきたいスミレが弱々しく呟いた。
「光野君……」
「タクヤのことは彼に頼るしかない。私達は自分たちの身の安全だけ考えるのよ」
スミレは少し考えてから、女性たちに向かって声を掛けた。
「あの、皆さん、力を貸してもらえませんか?」
麻薬に群がる者、倒錯している者、争っている者を除き、わずか六人だけがスミレを見た。
「あんた何様?ただの小娘じゃないの?!」
「そうよ、どうしてあんた達に協力しなきゃいけないのよ?あんなガキ信用できないわ!」
自分が信頼している遼介を赤の他人に否定されても、あえてそこには反応せず、スミレは彼女たちに同調を求めようとした。
「私は確かに若いし、皆さんを指揮する権限も筋もありません。でも同じ被害者です。皆の力を合わせれば、きっと脱出できます」
散々苦汁を舐めてきた女達に、スミレの言葉はまっすぐ届かなかった。
「甘すぎるわ!そんなの誰が信じるのよ?!」
「そうよそうよ!抜け出せる保証なんてどこにあるの!?」
スミレが口をつぐむと、代わりにアンズが前に出た。
「笑わせるわね!甘いのはアンタ達の方じゃない?人生に保証なんか初めから存在しないわ!確かに一人じゃ何もできないかも知れないけど、協力すれば成功する確率は上がる。ここから出るまでの間、その間だけでいいの。お願い。力を貸してもらえないかしら?」
6人の女達が顔を見合わせ、その中の一人が答える。
「…わかったわ。どうすればいい?」
「使えそうな武器を奪って、こいつらを拘束しましょう」
女達は意識を失った組員の武器を奪い、医療施設エリアに防衛ラインを展開した。アンズの指揮により、女性たちは隆二をはじめとして、倒れている男たちをもとめて縛った。ふとアンズがスミレに話しかける。
「ねぇ、スミレちゃ…」
スミレの姿はもうそこにはなかった。アンズが思っているよりもスミレの行動力はずっと高かった。近くの女性が言う。
「とこか行っちゃいましたよ」
「力を合わせるとか言っといて、なかなか自分勝手なことね」
「ここの見張りはしばらく任せできますかしら、私はあの子を直ぐに連れ戻します」
「分かりました、早く戻ってくださいね」
アンズは医療施設から出さった、銃の武装を展開したままエリア内の全ての部屋を探し回るが、スミレが見つからない。先ほどの落ちつかない様子のスミレを回想すると言う。
「あの子一体どこに……まさか?」
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